「ええ! そういう魔法もあるんです!」
応じながら、ジットはなお急ぐ。思ったよりは距離を取れたが、それでも稼げる時間はあとどれくらいか。十分? 五分? それ以下か? ギガントアーム警戒のためとはいえ、『船』を遠ざけていたのがここまで裏目に出るとは。
歯噛みつつ、ジットは振り返る。グラウカと、ミスカが交戦する方向。
「う」
「あ」
そして、その時。ジットと一郎は、見てしまった。
トーリスの操縦するグラウカ。その頭部に装備されていたバルカン砲。
そこから放たれた火線が、ミスカをバラバラに引き裂く一部始終を。
「ミ、っ」
一郎は、叫んだ。
「ミスカ・フォーセルーーーっ!!!」
奇妙な、大して知りもしない、けれども自分達の為に戦った男の名を。
「うるさいぞ。そこまで大声出さんでも聞こえる」
「うわビックリした!!!」
そしてすぐさま返って来た返答に度肝を抜かれた。
よくよく見れば、どうやら握っているプレートから通信しているらしかった。一郎はすぐさまスマホのように耳へあてる。
「おまっ、オマエ! あれで生きてんのかよ!! てかどっから喋ってんだよ!?」
「……? ああそうか、知らないから勘違いしているんだな。まず僕は、そもそも最初から生きていない」
「はぁ!?」
「エルガディア人には特有の事情があってな。簡単に言えば、このプレートが僕の本体なんだ」
「そうなの!?」
「そうなの。だからそろそろ顔から放してくれると助かるんだがね。暑苦しくて仕方がない」
「え? あ、ああそうか悪い」
慌ててプレートを顔から放す一郎。反射的に顔が上がる。
それで、彼は見てしまった。
トーリスが乗っているグラウカ、その肩部から分離したパーツが四機、こちらへ高速で向かって来るのを。
「なんだ? ドローン? ひょっとしてあれもキャプチャーとかいうヤツ?」
「いや、フェアリーユニットだな。本体を支援する自立タイプの小型機だ」
「主な目的は?」
「それは、恐らく」
航空力学をおよそ無視した形状の直方体ことフェアリーユニットは、音立てて装甲を展開させる。その中から現れたのは。
「攻撃だな。見ての通り」
魔力の光を蓄えた、冷徹な銃身であった。
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