言いつつ、ミスカは思考する。このトーリス・ウォルトフなる男、間違いなく今のエルガディア正規軍に属する存在だ。そして恐らく、この森にトーリス以外のエルガディア軍属は居るまい。人員不足はミスカが、引いてはエルガディア・グループが正規軍へ優位を取れる数少ない点の一つだ。
と、なれば。
「ジット。一つ尋ねるが、キミの仲間が周囲に待機していたりしないか?」
「それは、まあ、居ますけど。多分、今向かって来てるとも思いますけど」
苦い顔で、ジットは首を振った。
「多分、間に合いませんね」
「どれくらいかかる?」
「あと、五分以上は」
「ハハン! なるほどな。ではここでの尋問は止めにして、手早く移送するようにしてしまおうか」
耳ざとくやり取りを聞いていたトーリスが指を鳴らせば、彼の乗るグラウカが一歩踏み出す。すると膝部の機構が展開し、現れたのは光る円形のデバイス。良く見れば電子回路のような細かい文様の掘られたそれを、ミスカは忌々しげに見据える。
「キャプチャーか。当然備えてるよな」
「何、なんなのアレ」
「捕獲装置だ。主に人間相手に使われる、な」
そんなミスカの説明通り、グラウカの脚部対人キャプチャーユニットから光が伸びる。電子回路のように枝分かれながら伸びるそれは、瞬く間に巨大な籠を形成。一郎達三人へ、巨大な檻となって覆い被さった。
「いきなり、こんな事を! 許されると思ってるんですか!」
意外にも、最初に食って掛かったのはジットだった。だがトーリスは鼻で笑う。
「オイオイオイオイ! 先に我が国の資産、ギガントアーム・ランバを盗んでいたのはそっちだろ? 私はそれを成した反逆者、ないし反逆者と思しき者どもを現行犯で捕まえただけさ。そもそも被害を受けたのは私だぞ?」
「な、にを、バカな! 証拠は!」
「あるとも。すぐそこ、私の制御化にあったうちの一機。頭をブッ飛ばされたヤツがな」
悠々と指差すトーリス。忌々しい事に、それ自体は紛れもない事実だった。
途方に暮れ、一郎は頭をかきむしる。
「こ、これもう一体どうなっちまうんだよ」
「ロクな事にならないだろう。このままではな」
「俺、ただ、業者呼んだだけだったのになあ」
「焦るな。このままでは、と言っただろう」
「それってどうい、う?」
不意にミスカから投げ渡されたものを、一郎は反射的に受け取る。それは四方を金属で補強された、スマートフォンサイズの透明な一枚板。ミスカがプレートと呼んでいた物品であった。
「何? 何だよコレ」
「持っていてくれ、大事なものだ。それからジットくん」
「は、はい?」
「僕が隙を作る。こんな事を頼むのは心苦しいが、加藤一郎を連れてどうにかキミの仲間と合流してくれ」
「オイオイオイオイ! 中々面白いジョークじゃねえか! この状況で一体どうするつもりなんだア!?」
「勿論。こうやってだ。リミッター解除」
言うなり、ミスカは構える。右腕、円形のバックラー。
それ自体が、にわかに光を帯びる。一郎は反射的に手でひさしを作るが、それでも耐えきれないくらいに輝きは強くなり。
「フラッシュブースト……アタック!」
叫びだけを残し、一郎の視界からミスカが消える。
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