くるくると。
手裏剣のように回転した後、ミスカは着地。氷樹をなぎ倒して墜落したグラウカを一瞥すると、足早に一郎へと歩み寄る。
「今の内だ、逃げるぞ」
「エッこの流れで!? 今の凄いキックで倒したんじゃないの!?」
「馬鹿を言え、ヒトで例えるならあんなのは頭をぶつけてバランスを崩して派手に転んだ程度だ」
「それはそれで結構致命傷になりそうな気もするけど」
「生命体ならそうかもしれんがな。生憎とアレはそうじゃない」
「乗り物か」
「無人機だ。有人仕様機もあるにはあるが、それは大抵指揮官以上の者が……いや、そんな事は後だ。安全圏へ退避する」
「そうはいってもどこだよ安全圏」
「あそこだ」
言ってミスカが指差したのは、先程自身が繋げ直した空間の亀裂。即ち、一郎の部屋であった。
「成程! だったらいかにも一息つけるな!」
「うむ」
頷きつつバックラーを構えるミスカ。視線の先では頭部の損壊したグラウカが、四肢を微動させている。ダメージコントロール。再起動が近い。
「急いでくれ、加藤一郎」
「ああ……いや、けどその前に」
一歩。踏み出しかけた足を止め、一郎はジットを見た。
「そうだジットくん、キミも来ないか? こんな所に居たら危なすぎる」
「えっ? でも」
「おい加藤」
逡巡するジット、苛立ち始めるミスカ。
結果的にはその停滞が、三人の命を救った。
ごう。
轟く爆音。それが皆の鼓膜に突き刺さった直後、爆煙が一帯を覆った。
「な、んだ」
視界の全てを埋め尽くす黒煙は、しかし一定の距離からはまったく近づいてこない。透明な、大きい、半球状の力場が一郎達を守っているのだ。
そしてその半球の中央には、誰あろうミスカ・フォーセルが立っていた。
「スゲエ! 防いだのか! 何から!?」
「勿論、グラウカの攻撃ですよ!」
言って杖をかざすジット。何らかの魔法が働くと、視界を埋め尽くしていた煙の山がたちまち晴れる。
そうして三人の前に姿を現したのは。
ぎこちなく上半身を起こした体勢で、左腕を三人に向けているグラウカの姿だった。
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