わだつみに抱かれて 第六章完結記念
ナツガタリ宣伝番外編!
「なぁ、ユキ、俺ちょっと考えたんだけど……」
日曜日の午後、僕たちは兵学校からすぐの生徒倶楽部でホットケーキを食べていた。馬場が二枚目を平らげてから僕に話しかけてきた。
「『学園ミステリー』って銘打ってるけど、現実打破のためにタイムリープとかどうよ。」
「それでも俺は兵学校を選ぶよ。」
下がお茶を注ぎながら言った。ついでに僕の湯呑みにも足してくれる。
「私もやっぱり兵学校を選びますね。」
見林さんがお茶を飲みながら静かに言った。
「俺もかな。」
馬場は僕の方を見た。
「僕は……東京帝国大学か早稲田あたりに行ったかもしれないな。」
馬場が驚いた顔をした。
「お茶が切れてしまったから、取りにいきますね。」
見林さんが立ちあがろうとしたのを 僕が遮る。この与太話を打ち切るのは逃げるのが一番だ。
「すみません、お茶のおかわりいただけますか?」
僕は急須を持って廊下に出ると、倶楽部の娘に声をかけた。まだ小学生なのに給仕の仕事を手伝う感心な子だ。怖がらせないように、僕は一生懸命に笑顔を作ったが、娘さんは僕を見たあとはじかれたように走って奥へと引っ込んだ。
──やっぱり顔、怖いよな。
お茶ももらえず、すごすごと皆の元へ帰ると、倶楽部のお母さんがお茶を持ってきてくれた。なぜか苺ジャムもある。
「作り過ぎたからサービスね。」
「ありがとうございます。」
馬場がものすごく良い笑顔でお礼を言い、下と見林さんと僕は頭を下げた。さっきの子が入り口からこちらを見ていた。ちょっと頬が赤い。
馬場はやっぱりもてるようだ。
──もし、過去に戻れるんだったら……あの日の朝に……
僕はもらったジャムをケーキに載せて食べた。
どんなに頑張っても、過去には戻れない。なぜだか、ホットケーキが塩の味になった。
★第六章完結記念★
たくさんのご評価ありがとうございます!
何だか暗い第六章ですみません。最終章はもっと暗いかもしれません。
本編はコチラ
https://kakuyomu.jp/works/16818622176728224633/episodes/16818622176728358003