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東京魔術倶楽部30話 番外編

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https://kakuyomu.jp/works/16818093092370323390/episodes/16818093093044829584

『もしも会場に二階堂中尉が居たら』


──どうやら、大した収穫はなさそうだ。

 公爵主催の仮面舞踏会。二階堂は人混みの中で軽く欠伸を噛み殺した。
「明日も仕事だし、そろそろ退散するか。」
 小声でつぶやき、出口へと歩き出す。仮面に手をかけたその瞬間、視界の端に気になる二人組が映った。
 
 どちらも背が高い。片方は貴族風だ──男爵か子爵あたりか。どこか動きがぎこちなく、仮面の下の顔に不慣れな様子がうかがえる。普段は眼鏡をかけているのだろう。
 もう一人は、やけに姿勢が正しい。そして、手にしているのは酒ではなく水。間違いない、あれは軍人。そして、おそらく……同業者。

 二階堂は仮面から手を離すと、白ワインのグラスを取り上げ、さりげなく部屋の隅へと移動した。そして、例の軍人らしき男に目を向ける。

 視線の運びも、所作も、ごく自然。──なかなかの手練れだ。

「グラスの中身が水。ご婦人方の視線が、マイナスいち。」

 グラスを傾けながら観察を続けていると、男の視線が、ときおりチョコレートの皿にすっと吸い寄せられているのに気がついた。

「……食べればいいのに。」
  
 誰に向けるでもないささやきが、ワインの香りにまぎれて静かに消えた。

 そして数年後の海軍、情報部。

 ──あの夜の仮面舞踏会。
 白ワイン片手に部屋の隅から眺めていた、背の高い軍人風の男。
 水しか飲まず、婦人方の視線には目もくれず、時おりチョコレートの皿にちらりと視線を送っていた。

 「……食べればいいのに。」

 あのときはただの観察対象の一人として、軽く流していた。
 だが──

「うっっわ!!あれ少佐だったぁぁぁ!!??」

 数年後、報告書を読み返していた二階堂は、書類を床にぶちまけて椅子から転げ落ちた。

「惜しいことしたぁぁぁぁ!!声かけときゃよかったぁぁ!!」

 二階堂はすくっと立ち上がり、制服の埃を払った。

「チョコレート作る。あのときの。あの時あの人が見てたやつ!!せめて、気持ちだけでも届けたかったッ……!」

 泡立て器を手に、二階堂は真剣な表情でボウルに向き合う。
 カカオの香りに混じって、なぜか猛烈な後悔と愛しさが漂っていた。

6件のコメント

  • 久々同じ場所に河村さんと二階堂くんがいるのが読めて嬉しかったです。
    あの「マイナスいち。」の台詞は教官どのの影響でしょうか。相変わらずな二階堂くんが可愛かったです。
  • コレ、修子さんのターゲットは河村さんですねw先生、BLにまで手を出したんですかwあの底なし沼にw「よかっのか?ホイホイ付いてきちまって」「オレはノンケだって喰っちまう人間なんだせ」「いいんです、修子、河村さんが好きですから」「それじゃ、トコトン悦ばせてやるぜ」「アッー!!」w
  • なかなか、二階堂くんが帰ってこないのでつい。
    上海は上海で楽しそうですが、女の子拾ったのバレたらジタバタしそう。
  • 24さま

    手ぇだしませんよ(笑)
    お遊び小編です。

    実は福崎と河村の出会い話とか、こっそり書いてます。
  • (ΦωΦ)ホホォ…フフフ
  • totoさん

    ホホホ
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