いつも応援ありがとうございます。
「異世界でぼったくり宿を始めました ー稼いで女神の力を回復するミッションー」の書籍発売記念に、SSをアップします。
いつもはサポーター限定なのですが、今回は発売記念ですから誰でも読めるようにしました。
発売記念ですが、いつもより大分短いです。Web版ではすっかり出番がなくなってきた銀の牙の面々の、まだ初々しい? 時期のものになります。
それではどうぞ。
銀の牙の最初の夜
「はー。それにしても、泊めてもらえて助かったわねー」
テントの中で、リンがこぼす。確かに。イーゴルの治療場所を提供してくれただけでなく、こちらの図々しい頼みも聞いてもらえて助かった。
正直、ホーイン密林内で魔物の脅威を感じずに過ごせる場所など、貴重と言うしかない。
それを、一人十万イェン程度でいいとは。要求された金額が桁一つ上でも、俺達は何も言えなかっただろう。
ここの住人……アカリと言ったか。まだ幼いのに、一人でこんな場所に住んでいるなんて。
「それはそうと、あのアカリ、一人でここにいると言っていたな」
おっと、自分の考えがイーゴルに筒抜けになったのかと思った。そうではなく、奴も俺と同じ事を考えただけらしい。びっくりさせんな。
イーゴルの言葉に、リンもセシも食いついてきた。
「あ! それ私も思った! あんな子、どうやってホーイン密林に捨てるのよ」
「その前に、この場所をどうやって作ったか……ですよ、リン」
「いや、それはそうなんだけどさ……」
「私には、この場所を人間が作ったとは思えません。これこそ神の奇跡! あの神水も、神の奇跡の一つなのです!!」
セシの悪い癖が始まったよ……あいつ、普段は穏やかでいい奴なんだが、神様の事となると熱くなりすぎるというか、正直鬱陶しい。
元々神に仕える為に修道院に入ったような奴だしな。そこで出会った古い女神への信仰がバレて、修道院を追い出されたそうだけど。
それでも、身につけた神聖魔法は消えたりしない。それを使って、俺達より稼ぐパーティーに入る事も出来ただろうに。
俺達は、同じ孤児院出身だ。親の顔も知らない同士だが、だからこそわかり合える部分がある。
セシも、俺達といた方が気楽だと感じたのかもしれないな。
それはともかく。確かにここを人間が作ったとは思えない。ホーイン密林は、俺達の故国トールワーン王国でも……いや、近隣でももっとも危険と有名なダンジョンだ。
棲息する魔物もやたらと強いのが多いし、天然の罠がそこかしこにある。アカリのような子供が一人で住める場所じゃない。
いや、ここはどういう訳か、魔物が一切入れないようだが。
「そういえば、あの扉も私達じゃ開けられなかったわよね」
ぽつりとリンが漏らす。最初にここに来た時、木で作られた扉を開けようとしたのに、押しても引いても開かなかった。
鍵が掛かっていた訳じゃない。その証拠に、アカリは鍵を開けた様子はなかった。なのに、びくともしなかった扉が、簡単に開いたんだ。
あれは、アカリにしか開けられない扉なのかもしれない。
「リン、魔法で鍵を掛ける事って、出来るのか?」
「少なくとも、私は聞いた事がないわね。魔法って、そんな万能じゃないのよ」
俺達の中では、リン……リンジェイラが一番魔法の知識を持っている。本人が魔法職だからな。
そのリンでも、鍵の開け閉めが出来る魔法は知らない訳だ……
「やはり、ここは神が作られた場所なのです!」
「あー、はいはい。そういうのはいいから」
「む。リンは、もう少し神への信仰というものをですね」
「私、聖職者じゃなくて魔法職なのー。神様云々言ってる暇があったら、術式の一つも新しく覚えたいわ」
「もー」
リンとセシは相変わらずだな。
とはいえ、俺がこれ以上あれこれ考えたところで、答えが見つかる訳じゃない。
今は安心して眠れる場所がある事に、感謝しておこう。
翌日出された朝食は、これまで食べたどの朝食よりも美味かった。夕べの晩飯も美味かったし、それだけでここを見つけた甲斐があったってもんだな。