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バレンタイン特別更新12

別面:甘味に仕込む





「先輩、やっぱり悲鳴が上がってるっすよ」
「でしょうね」

 そんな会話があったのは、イベント初日の時間加速が終わり、「CSゲート」の位置を確認して、|召喚者《プレイヤー》組が一旦全員再ログインした後の事だ。
 場所はイベント空間内部、超特急で諸々の設備が用意されて城としての強度が上げられた、その調理場である。そこでそれぞれ配布用こと通常の特殊モンスターに対応する為のチョコレートの他、ルミルは身内の分のチョコレート武器も作っていた訳だ。
 それが内部時間明日から3日の分であるのは明らかであり、だからこそ住民の仲間の分の方が多い。これは予定調和というか、そういう風にしよう、と相談して決めた結果なので別に良いのだが。

「最初から飛ばしに飛ばして正解でした。あれだけやってまだ赤地に緑色だとは思いません」
「本当にそうっすね。そもそも、レイドボスがいるならそれはレイドイベントなんすよ」
「とはいえ、あの運営だものねぇ……」
「それはその、何と言うか……」
「期待できませんわね。これまでの事を考えるに、期待する方が間違いなのでしょうけれど」

 なおここにいるのは|召喚者《プレイヤー》の女子組だけなので、メタい会話をしても大丈夫である。もっとも住民がいたとしても、「運営」は「大神」に自動変換されて聞こえる等、聞かれても問題ないようにはなっているのだが。
 ルミルは当然ながら、全員がメインストーリーを最前線で駆け抜けた実力者だ。マリーも最後ギリギリとはいえ追いついたので、そこに含まれる。なおかつその後の色々にも参加しているし、必然的に影響度のステータスが高い。
 という事はつまりチョコレートを作ればその補正は大きくなる。だから全員で揃って、これでもかとチョコレートを作りまくっているのだが。

「そう言えばちぃ姫、ソフィーネに頼んで持てるだけ持ってきたけど、本当にこんなに使って大丈夫なの?」

 なのだが、その途中で作業は一切止めずに、ソフィーナがある疑問を投げかけた。こんなに使って大丈夫なのか、とはまた奇妙な質問だが、その意図は「無くなるかも知れないが大丈夫か」ではなく「こんなに大量に投入して大丈夫か」である。
 それを聞いて、ん? と首を傾げるフライリーとマリー。一方で聞かれたルミルは、あぁ、と小さく納得を見せて、頷いた。

「問題ありません。火力という意味で絶対に高品質なチョコレートが必要ですからね。何ならここで一度倉を空にする勢いで使いましょう」
「……まぁ、そうね。元の方の生産にも、その後の手順と加工にも、相応の時間がかかるもの。一旦空になった所で使い切れないのは見えているし、今なら誰の迷惑にもならないどころか歓迎されるわね」
「もちろんうちの子以外の武器にはしませんが。というか、チョコレート武器を食べるようになったからには、うちの子であっても武器には使いませんが」
「あの壁みたいな板チョコに入れればいいかしら。確か、チョコレートを投げ込む事で回収できるチョコレートの池があったのよね?」
「ありました。結構なペースで沈んでいくから補充が必要なんですけど、たぶんその手間も出来るだけなくした方がいいでしょうし」
「数を使うだろう「鉛の矢」のチョコレートにも入れましょう。あれの性能は高くても困らないわ」
「液体のままだと厳しいのでは? ゼリーにしますか」
「その加工はやるから、ちぃ姫は詰め作業をお願いするわ」
「分かりました」

 で、そのままその「何か」の扱いについて詰めていく。もちろんお互い作業は一切止めていない。
 のだが、ここでルミルはフライリーとマリーが怪訝な顔をしている事に気が付いた。あー、という顔になって、何故かちょっと周囲を見回した後。

「……あの、倉を埋め尽くしかけてる性能的危険物の話です」
「あっ。……あー、完全に理解したっす」
「あぁ、あの……なるほど確かに消費できるならしてしまうべきですわね」

 その正体が何かを知っていなければ、それは食べ物に使って大丈夫なのか? という疑問が出てくるだろう、事実ではあるが情報を限界までそぎ落とした言葉を、囁くように伝えた。
 それでフライリーは思い出して納得したし、マリーも同様である。そう。一応2人も知っているのだ。あの大量の百頭竜の素材を無毒化する為に作られる「神酔酒」が、相当な量になっている事を。
 神すら酔っ払う酒、という名前は冗談でも誇張でもなく、種族的に酒があまり飲めないフライリーは瓶を開けた時の香りでダウンしている。まぁそれでなくても性能が性能なので、外に出せないどころか存在すら知られる訳にはいかないのだが。

「なんであれを狩って来るんすかねぇ……?」
「竜族の神様の試練由来だからなのでは?」
「せめて鍍金の方にしろとは言ってますし、技術的な意味で難易度が高いやつがいいならステージレイドボスの中からギミック系の奴を探して貰ってその中から挑めとも言ってるんですけどね」
「ちぃ姫が言っても聞かない貴重な注意事項よね」
「それも、確か強化状態で挑んでるんですよね? 主に『勇者』の2人が」

 その「神酔酒」が増える原因については、少なくともこの部屋にいる|召喚者《プレイヤー》には、分からないのだった。

※02/23一般公開予定

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