• 異世界ファンタジー
  • 詩・童話・その他

排外主義に抗う拙作作品6選のご紹介

⬛︎現代ファンタジーSS「ささやかなる晩餐を共に」(ノンバイナリー主人公)
https://kakuyomu.jp/works/16818622175784554137
“隣国の復興には長い時間を要するであろうことは、議会の様子を日々新聞で追っていても目に見えてわかることだった。議会は揉め、予算の成立は遅れ、その額も施策の内容も、おおよそ十分だとは寡聞にして聞かない。同盟国の美名も虚ろなものだ。
 背後には長らく対立してきた歴史があり、その中で命を落とした人々の数知れない骸がある。この国の首長の哀悼の意を、苦々しい思いで聞いた隣国の人々は数知れないはずだ。”

“「祖母、か。俺も亡くしたばかりさ。今日の客はその弔問だ。わざわざこんな安普請に訪ねてくる客だ、もてなそうと準備をしていたが、こればかりは同盟者としてのよしみだ、仕方がない」
 同盟者、という言葉が胸に突き刺さる。その言葉を政治家が弄してやまない国にあって、市井の男の口から発せられたその語には、血の通った響きがあった。両国の子どもたちを、現場にあたって担う教師としての矜持を、その瞳が物語っている。私の暗い部屋で澱み切った瞳の色にはない光がそこには秘められていた。”


⬛︎SF短編小説「異国の踊り子は秘密を抱く」(創作BL)
https://kakuyomu.jp/works/16818093084198304344/episodes/16818792436475935480
“シャルの出自を私は詳しく知らないし、彼自身も多くを語ろうとはしなかったが、その名がこの国に迫られて改名したものであることはすぐに知れた。本名は知る由もなく、彼も語ろうとはしない。愛煙家でもある彼は、食事も取らずに濃いブラックコーヒーをサーバーから勝手に淹れて煙草を吸うのが常だった。”

“ シャルのような流れ者は数多くこの国に辿り着いたが、十分な支援を得られることはなく、その多くが締め出され、あるいは隔離されて、おそらくここに来るまでの間に彼の肉体は毀損されてしまった、ということは、シャワールームの中で知ることとなった。
 シャルの肉体の奥に、癒えぬ心の傷口があることを、私は知ることとなったが、その晩彼は食事を拒んで、煙草を二箱空けたのだった。その頬に、静かに涙が伝うのを、私は見ていることしかできなかった。そうこの国多くの人間たちと同様に。”


⬛︎異世界ファンタジーSS「荒れ果てた世の片隅に建つ、やすらぎの宿で」(ノンバイナリー主人公)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885835171/episodes/16818792437911763978
“ 独り言をこぼした彼を前に、わたしはゆっくりと煙草を一箱卓上に滑らせる。
「ユディル・レスティーク、昨夜から世話になっている者だ。できればこいつでおめこぼし願いたい」
「やれやれ、こんな店、やっぱりさっさと畳んじまうのがいいんだろうな。カミさんに合わせる顔もない」
 宿主はぼやくも、その手はすばやくケースを隠すようにして箱を覆った。その手のひらのうちに、どれだけの人々が匿われてきたのだろう、とわたしは想像する。ともすれば“叫びの沼地”から来たというだけで石を投げられるのだ。
 これも湿潤な土地に根を下ろして生きてきたギルヴィアの民にとっては最大の蔑称だが、無性の個体が生じる地、つまりは人の道理に反した土地と見做されてきたのが故郷に他ならず、両親はわたしを忌み子として放逐したのだった。
(…)
 わたしはぽつぽつと身の上話を宿主に語った。”


⬛︎異世界ファンタジーSS「孤島の薔薇」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885835171/episodes/822139837754061283
“かつて亡き母と眺めた庭園の薔薇は今年も花を結ぶのに、おまえは部屋の窓を固く閉ざして、その外に氾濫する孤島の言葉を聞くのに耐えかねて、遥か彼方の陸の言葉を記した辞書を積み上げた本の山から引っ張り出して、そのうちに不屈の文字があるのを見出す。メルドレギア、とくちびるが音をなぞり、何度も反芻する。表音文字は音の連なりをもっておまえに異国の風を届ける。たびたびおまえはそうして外の国々の言葉をなぞり、誰も読むことのない手帖に記してきた。その間、おまえはこの海から自由でいられた。おまえはよろよろと立ち上がり、かつて首都ラビアスで催された骨董市に異国の人々の一群があったことをまざまざと思い起こす。そのうちのひとり、名も知らぬ老婆から贖った茶器は、たしかまだ戸棚にしまってあったはずだった。”

⬛︎現代ファンタジーSS「静謐の園にて」(ブラザーフッド掌編)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885835171/episodes/822139839116525216
“囚われた人々の群れは彼らが異教の民であることをその衣服によって示していた。私は息を押し殺してページを捲る。
 彼らはそこにとどめられたまま、あまりに永い時を過ごさざるを得なかった。無為な日々のうちに光があったのか、彼らの求める神々の姿は見出されたのか、写真は何も語らない。ただその異国の衣服に覆われた背に、焼印があることを私は知っていた。
 糾弾する新聞もかつては発行されていたが、差し止めになって久しい。私はその廃刊の報を受けて、家中にある新聞を集め、ひたすらに手帖に貼りつづけた。余すところなく切り取られた新聞紙は、手帖を膨らませた。その厚みが語るものに、私は耳をすませた。
 間もなくして主筆であった男が獄死したと報せが入った。誰も彼を悼まなかった。風雪が吹き荒ぶ日、私は深くフードをおろして彼の小さな墓石に一輪の花を手向けた。やがてその花びらは雪に覆われ、丁重に香りを墓石に移した。
 私は名前さえ奪われ、「或る男」とだけ刻まれた墓碑がだんだんと雪によって隠されてゆこうとするのを、手で払った。雪はつめたく私を責めた。そうしてひとつ、灯りが消えた。声高に叫ぶ人々は彼を嘲笑った。”


⬛︎ノンフィクションエッセイ「良きひとへ」(2019.07.21執筆)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054890434053/episodes/1177354054890475197
“ Amazonにはデリバリープロバイダと総称される配送業者がいる。ネットで検索してみるとあまり良い噂を聞かないこのシステムではあるが、かつて私の住んでいる地域を担当していた配送業者のおばさんについて書いてみたい。
 おそらく東南アジア出身と思われるその女性は、ずいぶんと気さくな人柄だった。初めて届けてくれた日から、日本人の配送業者にはまず見られない愛想の良さで挨拶をしてくれて、「お姉さん」と私を呼ぶ。その距離感の近さに面食らったものの、「そういう国柄の人なのだろう」と思うと、機械的な荷物の受け渡しとは違う、あたたかな気持ちに包まれた。彼女の出身国ではそのようなフランクなやりとりが日々行われているに違いない。
 異国の地で見知らぬ日本人を相手に荷物を届けている彼女にとって、恐るるに足らない小娘の私は、親しげに接してもなんら違和感のない存在だったのだろう。他の配達先でどのような態度で客と接していたのか、私には知る由もないが、そういう彼女の距離の近しさが私にはうれしかった。”

“そして今日も彼女がAmazonの品を配達してきてくれると思ってドアを開いたら、待っていたのは見知らぬ外国人の男性だった。彼女は仕事を辞めてしまったのか、まだこの国に留まっているのか、あるいは母国へと帰ってしまったのか。いずれにせよ私には分からない。彼女に少しなりとも感謝の気持ちを伝えておけばよかったと思うが、今となってはもう遅い。
 せめてもう少し処遇のいい仕事に就いて、どうか幸せに暮らしていてほしいと願う。デリバリープロバイダの労働環境は過酷と聞く。彼女には養っていた子供もいたのかもしれないし、母国を離れて働くことの厳しさに直面したことも一度や二度ではあるまい。だから、どうかお幸せに。たとえこの国にいたとしても、そうでなくても、家族みんなであたたかい食卓を囲んで、おいしいお米を食べていてほしいと祈る。”

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する