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https://kakuyomu.jp/works/16818622171805829701/episodes/16818792437212624023この話の公開版はこちら
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「教えてくれない? 神代(かみしろ)君が考えている『役に立つ証明の方法』」
「……そんなものはない」
わたしは言葉を失い、気が遠くなる。
心が身体を離れて、虚空(そら)へ飛んでいった。
そして宇宙をただよった。遠くに青く清浄なる地球が見える。
わたしはカモメ、メダカ、カタツムリ……
「おーい、八巻(やまき)さーん、生きてるかー」
ハッ!
意識が戻ってきた。
神代君に体をユッサユッサされている。
「何かを……なんだか重要な何かがわかりそうだった……生きている理由とか……」
もう少しでアカシックレコードまで行けた気がする。
「ボケは僕の役割なんで、取らないでくれる?」
「ごめんなさい。って、証明の方法がないって、君が言うからじゃない!」
神代君はわたしの抗議を無視。
部室の壁に掛けられたホワイトボードに何か書き始める。
「まあそう言わずに。何かうまい方法がないか、作戦を考えてみないか」
◇
『七日市(なのかいち)先生は文芸部を潰して別の部を作りたい』
ホワイトボードにそう書かれていた。
「こういうことなんだね?」
「乙女のカンだよ。略してオトカン。結局先生自白っぽいことを言ってるけど」
折角推理したのに、すぐ自白した感じになって悔しい……だからわたしのカンであることは強調した。
「オトカンはいまいちだけど、スカウトしている現場、僕も見た。鉄板だろう」
ダメ出し食らった。
「それはともかく、七日市先生の考えにはちょっとした穴があるんだ」
どういうこと?
「今回部を何とかするためには」
彼はホワイトボードにキュッキュッと『文芸部の生存戦略』と書いた。更に続けて──
『① 部誌を出すこと』
『② 僕らの活動が無駄ではないことを証明する』
「この2つが必要」
うんそう。
「前回の部誌廃棄数を問題にされたけど、①の条件に数字は入っていない」
……あれ、そうだったカナ?
「そうだよ。だから、僕らは何でもいいから部誌を出せばいい。簡単に条件クリアだ」
「だとすると、先生にしては凡ミスかな」
「教頭先生や学年主任に見られてたし、焦ってしまったんだろう」
どこの世界でも、上司に見られると緊張して失敗しやすい。
おとーさんがそう言ってた。
いや、ちょっと待って。わたしはパイプ椅子から立ち上がって神代君からペンを取ると、『① 部誌を出すこと』の下に『神代君が書く』と書き加えた。
「これがないと、部誌出せないんですけど?」
神代は明後日の方向を向いて頭をかく。
誤魔化してる……
「なんなら、君の中学生時代作品をまた載せる手もあるけど?」
「それはやめてくれ。勝手に載せるのはナシだ」
あまりにも神代君が書けないので、6月号は彼の新作を諦めた。
その代わり、わたしが持っている神代君の作品集を提供。
そこから前部長が勝手に数作をチョイスして掲載した。
まだそのことを根に持っているようだが、どうしてそこまで嫌がるのだろう。
「ちなみに過去改変モノが1作未発表だよ?」
「アレはダメだ。ありきたりすぎる。捨てても良いまである」
神代が発表すると言い始めても、わたしは『アレ』を部誌に出すつもりはない。
その原稿はわたしの門外不出バインダーに入っている。
『アレ』はわたしのNo.1なんだ。他の子には見せたくない。
本人にはそんなこと言えないだろう。絶対からかわれるだろうし。
「そうだよね。アレは捨てる代わりに私が持ってるから」
「なら、大事に持っていてくれ。いつか役に立つかもしれない」
わかったわかった。
「絶対書くから。待っててくれ」
おっ、久しぶりにやる気じゃん。
「どこかに書くのが楽なテーマ転がってないかな。八巻さん、何かない?」
おいおい、それは考えて欲しいぞ。
思いついてたらとっくに伝えてるし。
◇
次は、これが必要だ。
わたしは『神代君が書く』の隣にこう書いた。
『六島(むしま)さんに原稿を出してもらう』
「それは僕から──」
一瞬だが、神代の顔が嫌そうで嬉しそうな、微妙な顔になった。
六島杏奈(むしまあんな)さんは、今の文芸部では看板作家なんだけど……
例の『ライト文学同好会設立騒動』以来、部室には来なくなっていた。
わたしにとっては、高校で知り合ったクラブ仲間であり友達だ。
また部に来るようになって、原稿を提供してくれるようにしないと。
だけど──わたしの心にトゲがささった気がした。
神代君と六島さん、最初からやり取りがとてもぎこちない。
2人はこのクラブで初めて会ったはずなのに。
何度かそれとなく理由を聞いてみたが、いつもかわされてしまう。
これは2人の過去に何かあったと、カンがささやいている。
「それはわたしが言うから」
カンがささやくから、そうするんだ。
マジそれだけだから……たぶん。
「あ、ああ。わかった」
同意してくれたのは良いが、あっさりし過ぎて気味悪い。まぁいいか。
「出したと言っても、部誌が薄かったら先生に文句を言われるかもしれない。僕や六島さんが書いても部誌はまだ薄いだろう。それに原稿を落とすことも考えて……」
「……落とすとか縁起でもない。来年度、たくさんの新人に入ってもらって、書いてもらうんでしょう? 新入生クラブ説明会、頑張らないとね。内容考えておくから」
「頼む」
手を合わせて、拝まれた。
仏像かっ。
わたしは『新人を入れて、作品をたくさん書いてもらう』と追記した。
次に神代君は、ホワイトボードの『② 僕らの活動が無駄ではないことを証明する』から、『① 部誌を出すこと』に矢印を引いた。
「②の条件、これは考え方次第なんだ。①に入れてしまえる。部誌をこれまで以上に大量配布できれば……」
「なるほど。ほら、これだけ評価されているんですよ、わたし達は。役に立っているでしょう? なんて、ドヤ顔で言えるって訳ね」
「後は僕がゴリ押しでなんとかする。職員室の時みたいに。これがプランAだな」
でも、ちょっと待ってほしい。
「大量配布、どうやってするの? 3倍配布とか言ってたけど」
「だから、まだ考えてないって」
穴があるのは、神代君の頭でした。
「一度頭をのぞかせてくれない? 君の頭に開いてる穴、針と糸で閉じてあげる」
代わりにその空っぽの頭へ、わたしの画像を大量に流し込んであげる。
わたしで頭が満たされて、寝ても覚めてもわたしを思い浮かべることになるのよ。
口から鼻から、穴という穴からわたしの画像が流れ出て……ウフフフフ。
ハッ!
ちょっとやりすぎ。
……これじゃわたし、ストーカーじゃん。
わたしがつまらない妄想している間に、神代君は長椅子の上で寝転がっていた。
「一体どうしたの?」
「MPゼロ……活動停止……」
そして、丸まってダンゴムシみたいになった。
彼の目に光がなくって……大丈夫ではなさそうだ。