「こんなところにも大きなモミの木があったのね」
「ああ、何故か昔からあるんだ」
俺の名はエディアルド・ハーディン。
今日は妻のクラリスと中庭を散歩していた。
この中庭には、昔から一本の大きなモミの木が立っている。
この世界にはクリスマスという文化はない。
だが、あの雰囲気を少しでも味わいたくて、十二月になると俺はモミの木にツリーを飾ることにしている。
ツリーはスラクリルという名の魔石でできている。
スライムから採れる魔石で、見た目も性質もプラスチックに酷似している。しかもスライムの身体から無限に生成されるため、これを素材にさまざまな商品を開発しようと考えているところだ。
スラクリル製のツリーは、電球のように点滅する仕組みになっている。
いずれはイルミネーションも作ってみたい。
クリスマスのあのワクワクする感じは、やっぱり特別だからな。
俺はモミの木を見上げながら言った。
「このモミの木の下で、子供の頃アーノルドとカーティスと遊んだことがあったんだ」
「へぇ、そうなんだ」
俺がモミの木に向かって目を閉じている間に、アーノルドとカーティスがそっと俺に近づく。
そして俺が「ドラゴンが火を噴いた」と言って振り返った瞬間、二人はピタッと動きを止める――そんな遊びをしていた。
『あー! カーティス、今動いたぞ!』
『き、気のせいです』
『カーティス、残念だけど動いていたよ』
『あ、アーノルド様ぁ……』
あの頃からアーノルドは正義感が強かった。
たとえ相手が味方でも、ズルは絶対に許さないタイプだった。
「前世でいう“だるまさんが転んだ”で遊んでいたんだ」
「大知君は、だるまさんが転んだ派だったのね」
「え……クラリス……いや、穂香は違うのか?」
「私の地元では“ちゅうちゅうたこかいな”って言っていましたよ」
――そうだった。この手の遊びは地域によって呼び名が違うんだった。
「それにしても、三人ともそんな遊びをしていた時期があったのね」
「あの中ではカーティスが一番弱かったな……今度イベントでやってみるか。“だるまさんがころんだ”大会」
「“だるまさんが転んだ”って言われても、皆わからないわよ。“ちゅうちゅうたこかいな”にしましょ」
「いや、それもわからないだろ。元日本人の俺ですらよくわからんのに」
俺とクラリスは、この国に元々ある「ドラゴンが火を噴いた」というフレーズを完全に無視して言い合っていた。
ちなみに大会案は、予定が合わないという理由でアドニスに却下された。
他の地域の例:「坊さんが屁をこいた」「インディアンのふんどし」「乃木さんは偉い人」