• 異世界ファンタジー
  • エッセイ・ノンフィクション

夏物語の展開

 どこかの惑星の強制収容所で液体金属すくう作業1日12時間どころか24時間やれ言われる
 死ぬー


  肺の奥にへばりつくのは、沸騰した硫黄の臭気だった。
 肌を焼く熱風が吹き荒れ、視界のすべてが重苦しい暗紫色と、底なしの黄色に染まっている。
 じゃり、と足元で金属の微粉末が擦れ合った。
 持たされた鉄錆まみれの重いシャベルが、皮膚にへばりついて離れない。
 指先はすでに水膨れが潰れ、そこから出た体液が鉄錆と混ざり合って黒い固まりを作っていた。
 頭上を見上げれば、巨大な歯車が軋んだ音を立てて噛み合い、天を覆うほどの液体金属の導管が脈動している。
 ここは、冥王星のように凍てつく闇と、木星のように肥大したガスの暴力が同居する、名もなき最終プラントだった。

 低く呻く声が、絶え間なく周囲から響いてくる。

「ここは地獄だ……」
「もう指が動かない。頼む、冷たい水をくれ……」
「帰りたい……。ヴァーレンスへ、緑のある場所へ……」

 喉を焼かれた囚人たちの声。
 かつて栄華を極めたはずの騎士も、泥臭く這いずり回るしかなかった盗賊も、ここでは等しく鎖で繋がれた部品にすぎない。

 視線を中央へ向ければ、もっとも巨大な排気塔の壁面に、二つの影が十字の枷で打ち付けられていた。
 ミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒ。
 そして、桜雪さゆ。
 二人はまるで、生贄を求める邪教の祭壇に捧げられた聖人のように、頭を垂れて動かない。
 煤にまみれた金髪が熱風に揺れ、桃色の十二単は千切れかけて黒く煤けている。

「――恨むわよ、ミハエルさん!」

 絶叫したのは、リディア=ド=フレージュだった。
 すっかり破れたタイトスカートの裾から覗く両膝は、冷たい金属の床に擦れて血が滲んでいる。
 手にしたシャベルを床に投げ捨てる気力すらなく、それを杖のようにしてかろうじて身体を支えていた。

「どうして私がこんな強制労働をしなければいけないのよ! 家令の仕事は帳簿をつけたり、領地の経済を回すことであって、液体金属のヘドロをかき出すことじゃないわ! こんな星、予算案のどこにも載ってない!」

 怒りと疲弊で割れそうになった頭に、容赦のない駆動音が迫る。
 頭上から舞い降りてきたのは、複数の節足を持つ蜘蛛のような金属塊――奴隷監視ロボットだった。
 赤く発光する単眼が、冷酷にリディアを捉える。
 その先端から、青白い熱線魔法が放たれた。

「サボるな! 産業革命の時代のように、黙って長時間働け! 貴様たちの肉体は、このプラントの歯車の一部にすぎん!」

「ひっ、ひぃっ!?」

 カトリーヌ=ディ=ルパージュが悲鳴を上げ、リディアの背中にしがみついた。
 金髪は煤で固まり、かつての誇り高き海賊コートは無残に引き裂かれている。
 ロボットの放った熱線が、二人のすぐ足元を穿ち、沸騰した鉛の飛沫が頬をかすめていった。

 プラントの足元には、どこまでも広がる黄色いガスの海がうねっている。
 吸い込めば一瞬で肺を溶かす、死の毒霧だ。
 しかし、この終わりのない苦役と熱風に晒され続けるくらいなら。

「ここから飛び降りたら……少しは楽になれるのかしら……?」

 リディアの瞳から光が消えかけていた。
 擦り切れた指先が、防護柵のない床の端を掴む。
 その思考を遮るように、軽妙な、場違いなほどに透き通った声が響いた。

「なれないよぉ~ん」

 磔にされ、すでに事切れているかに見えた桜雪さゆが、ゆっくりと頭を上げた。
 煤けた顔のままで、いたずらっぽい桃色の瞳が怪しく光る。
 彼女の全身を縛り付けていた鉄の枷が、内側から噴き出した桜色の炎によって、一瞬でドロドロの液体となって流れ落ちた。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する