合理性会議
議題:「ラブコメがリアルに追い越される!」とは何なのか
これ(長引かせ過ぎると読者がリアルでラブコメ追い抜かしてしまう)考えちゃうからわたしはラブコメ描けない。
――フィクションの恋愛が、現実の人生変化についていけなくなった場合――
ウガヤ「では議題を整理しよう。
『ラブコメ作品が長期連載される間に、読者側の現実が先に進んでしまい、作品内の恋愛進行が相対的に古く感じられる現象』についてだ」
「ああ……これはある意味、時間との勝負だな……!」
ミハエル「そう。
漫画の中では、
『好きかもしれない……!』
『でもまだ付き合ってない……!』
『今度こそ告白する……!』
を何年も繰り返している。物語では、キャラクターの商品価値を維持するために、時間を停滞させることがある
ところが読者は、その何年もの間に――」
「就職!!」
「昇進。」
「転職。」
「大学卒業!」
「結婚。」
「子供。」
「浮気」
「離婚。」
「住宅ローン」
「現実が進みすぎだろ!!www」
高校生の頃には、
『手をつなぐだけでドキドキする』
という描写に共感していた読者が、十年後には社会人になっている。
その読者に同じ関係性を同じ速度で提示し続ければ――」
「受け手の時間だけが進み、作品内時間だけが停止する
出席者:ウガヤ、ミハエル、ブラックヴァルキリー・カーラ、シルフィード、フレデリック・ローレンス
ウガヤ
「まず確認しよう。
ラブコメとは、本来ならば現実ではなかなか起きない恋愛イベントを、娯楽として圧縮したものだ。
ところが現実側がそれを上回る場合がある」
「問題は、その現実側の人物が――」
ちらっ。
フレデリックを見る。
「……ラブコメ漫画を読んだことがないことだ」
フレッド
「おう。読んだことねーわー本棚すっきり。バトルものはあるけどよ。そもそも、ラブコメってどういう本なんだ?」
シルフィード
「そこから!? ラブコメ漫画を一冊も読んだことない人が、なんでそんなに女性関係が……」
フレッド
「いや、別に難しいことじゃないぜ? 街で綺麗な女性がいたら声をかける。
気が合ったら酒を飲む。話が盛り上がったら一緒に過ごす。
それだけだろ?」
カーラ
「…………」
(こいつ、ラブコメという概念を知らないままラブコメの主人公みたいな行動をしているぞ)
ミハエル
「そうなんですよーフレッドはぁ~。フレッドの面白いところは、恋愛作品の文法を知らないことだな。普通のラブコメ主人公なら、
『えっ!? なんで彼女が俺の家に!?』
『ち、違う! これは誤解だ!』
『俺はそんなつもりじゃ――』
とかやる。フレッドは違う」
フレッド
「?」
ミハエル
女性が家にいる
「『ああ、来たんだな』で終わる」
カーラ
「wwwww」
シルフィード
「ラブコメ主人公より処理速度が速すぎる!!」
ウガヤ
「なるほど。ラブコメでは『偶然』がイベントになる。しかしフレッドにとっては――」
偶然 → 日常
ミハエル
「そう。そしてラブコメ漫画では、主人公が女性と親しくなるまでに数十話かけることがある」
フレッドの場合
数話どころか、本人が何も意識していない。
カーラ
「つまり……ラブコメ作者が半年かけて描くイベントを、フレッドが日常生活で消化している!?」
フレッド
「大げさだなぁ」
シルフィード
「大げさじゃないよ!! そもそもフレッドって、設定上も――」
ちらっと人物設定を見る。
「『元泰平浪漫の剣士にして、女性をナンパすることも趣味の一つ』みたいな人物じゃん! なのに本人はラブコメ漫画を読んだことがない!」
ウガヤ
「これは興味深い。つまり彼は、作品から恋愛作法を学んだのではなく、実生活から直接学習している」
ミハエル
「そういうことです」
「ラブコメは、
作品 → 知識 → 行動
になりやすい」
「フレッドは、
現実 → 経験 → 行動
だ」
カーラ
「じゃあフレッドにとってラブコメ漫画って……」
ミハエル
「たぶん。なんでこいつらこんなに回りくどいんだ?』って思ってるはず」
フレッド
「いや、実際そう思うかもしれない。好きなら好きって言えばいいじゃないか」
シルフィード
「うわああああああ!! ラブコメ読者の心を抉る正論やめて!!」
ウガヤ、さらに合理化する
ウガヤ
「では、ラブコメがリアルに追い越される条件を整理しよう」
黒板に書く。
1 現実の人間が作品以上に積極的
「これだけでも成立する」
2 現実では偶然の出会いがそのまま人間関係に発展する
「作品では『運命の出会い』として描くところを、現実では普通に会話する」
3 当事者が恋愛イベントとして認識していない
「これが重要だ」
ミハエル
「そうなんですよね~~本人がラブコメをしているという自覚がない場合、作品側の演出が追いつかなくなる」
カーラ
「たとえば?」
ミハエル
「漫画なら――」
『二人きりの帰り道……』
『彼女が突然、俺の手を握った!』
『これは一体どういう意味なんだ!?』
フレッド
「手を握ったなら、握り返せばいいやんけ?
ミハエル
「ほら。握り返せばいいやんけ? で終わり」
シルフィード
「ほらじゃない!!www」
カーラ
「フレッド、ラブコメの尺を破壊してるぞ!!」
そしてミハエルが核心を突く
ミハエル
「結局ね。ラブコメは『恋愛が起きるまでの過程』を娯楽にしているんだわ」
でも現実の人間関係って、もっと雑」
「出会う。
話す。
飲む。
喧嘩する。
仲直りする。
気が合う。
一緒にいる。
その結果として恋愛関係になることもある」
「つまり――」
『恋愛イベント』をイベントとして認識していない人間ほど、現実の進行速度が速い。
ウガヤ
「合理的だ」
「恋愛を目的関数に設定していないから、恋愛成立までの余計な演算をしていない」
フレッド
「目的関数?」
ミハエル
「気にしなくていいぞ」
シルフィード
「またミハエルが人間関係を計算式にしてる……」
カーラ、結論を出す
カーラ
「つまりだ! ラブコメを知らないフレッドが、ラブコメよりラブコメしている! これが今回の議題の答えだ!!」
フレッド
「でも俺、恋愛漫画の主人公になりたいわけじゃないぞ?」
全員
「知ってる!!!」
シルフィード
「そこが一番ひどいんだよ!!」
ウガヤ
「作品側は『こんな恋愛は現実にはそうそう起きない』と思って描く」
「しかし現実には――」
『そんなことを普通にやる人間』が存在する。
ミハエル
「だから『ラブコメがリアルに追い越される』んですよ」
「創作が現実を誇張した結果、現実の人間がその誇張を普通にやってしまう」
カーラ
「そしてフレッドはラブコメを読んでいない」
シルフィード
「でも女の子とは普通に仲良くなる」
ウガヤ
「恋愛作品の知識なし」
ミハエル
「経験値のみで攻略」
フレッド
「攻略って言い方やめないか?」
結論
ウガヤ
「ラブコメとは、恋愛を物語化したものだ」
ミハエル
「現実の人間関係は、物語より自由度が高い」
カーラ
「そして自由度が高すぎる奴がいる!」
シルフィード
「ラブコメを知らないのにラブコメ主人公を追い越す奴がいる!」
フレッド
「……俺、そんなに変か?」
ミハエル
「かなり」
カーラ
「かなり」
シルフィード
「かなり」
ウガヤ
「合理的に見てもかなり」
フレッド
「四方向から来たな……」
そして最大の皮肉。
ラブコメを読んでいる人間より、ラブコメを読んでいないフレッドのほうが、ラブコメ的状況に慣れている。
これがまさに、
「創作が現実を模倣した結果、現実側の人間が創作を追い越す」
という現象だなwww
ラブコメ主人公
「これは……恋愛フラグ!?」
フレッド
「飯食いに行くか?」
ラブコメ主人公
「彼女は俺のことをどう思って――」
フレッド
「本人に聞けばいいだろ?」
ラブコメ主人公
「告白する勇気が……!」
フレッド
「好きなら言っとけ言っとけー」
ラブコメ、死亡。
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