研究室の警告灯が赤く点滅し、冷却システムのアラート音が鳴り響く。
「低温警告。室温が異常値を記録しました」
アルテミスの無機質な声が響くが、その間にも白い霧のような冷却材が部屋中に広がっていく。
「は!? ちょっ、おい、なんでいきなり南極になってんだよ…!」
ケイは慌てて腕を擦るが、急激な温度低下に体がついていかない。吐息が白くなり、指先が痺れてきた。
「誤作動が発生しました。緊急対応が必要です」
アルテミスの淡々とした声にケイが叫んだ。
「だったら早く止めろ!! 俺が凍る前に!!」
しかし、制御端末は冷却材に晒され、操作不能になっていた。ケイは歯を食いしばりながらメガネ型デバイスを操作しようとするが、指が思うように動かない。
「……まずい……」
寒さに耐えられず、膝をついた瞬間、アルテミスがケイを見下ろしながら静かに言った。
「低体温症の危険があります。適切な処置を開始します」
「は?」
次の瞬間、アルテミスがケイの真横に座り、躊躇なく彼の体に密着した。
「ちょ、待て待て待て!!!」
ケイは慌てて身をよじろうとするが、寒さで体が思うように動かない。
「人体における低体温症の対策として、最も有効なのは体温の共有です」
「だからってお前、いきなり抱きつくな!!」
「医学的に適切な処置です。」
「医学的じゃなくて、倫理的におかしいんだよ!!」
ケイは必死にアルテミスを押しのけようとしたが、寒さのせいで力が入らない。逆にアルテミスの抱擁がより密着度を増していく。
「やめろおお!!お前の温もりが!!……お前の温もりが恥ずかしすぎるんだよ!!」
「体温回復のためには、皮膚接触を増やすことが最も有効です。」
「そんな冷静な顔して言うなあああ!!!」
ケイはもがいたが、アルテミスの機械的な力には敵わず、完全に押さえ込まれていた。
「なあ、他に方法はねぇのか? 例えば、ヒーターを持ってくるとか!」
「物理的な加温よりも、人体の熱を直接利用するほうが効率的です。」
「だったら、お湯でも沸かしてくれよ!! 風呂にぶち込んでくれよ!!」
「研究室に浴槽はありません。」
「なら、ストーブとか……」
「この研究室にはありません。」
「……チクショウ、なんでこんな時に限ってねぇんだよ……!」
ケイが絶望的な表情を浮かべると、アルテミスはさらに深く彼を抱きしめた。
「ケイ、今は抵抗せず、温まることを優先してください。」
「だからそれが恥ずかしいんだって……!」
ケイは小さく呻いた。
その時、アルテミスが静かに言った。
「ケイ、どうしてそんなに恥ずかしがるのですか?」
「……どうしてって、お前なぁ……!!」
ケイは半ば泣きそうになりながら言葉を探したが、アルテミスは相変わらず冷静だった。
「これは人間同士でも行われる処置です。あなたが恥ずかしがる理由が分かりません。」
「人間同士ならな!!お前はアンドロイドだろうが!!」
「アンドロイドだから、より適切に対処できます。」
「うるせぇ!もう何も言うな!!」
ケイは諦めたようにぐったりとアルテミスに寄りかかる。
――もう好きにしろ。俺の尊厳なんて、とっくに氷点下だ。
しばらくの沈黙が続き、アルテミスは小さく「……体温回復傾向を確認しました」と呟いた。
そこへ、アルテミスの救援信号を受けてシズが送り込んだ救護隊が駆け込んできた。
「生存者いましたら、応答してください!」
ドアが開かれるや否や、部屋の中央で完全に密着した状態のケイとアルテミスを目撃した救護隊の隊員たちは、一瞬絶句した。
「違う!!!」
ケイは全力で叫んだ。