久谷、久万山に住む神通力自在の古狸「隠神刑部」は八百八匹の狸を従え、松山城の守護神として崇敬されていました。
大飢饉が起きた享保十七年(一七三二)のころ、城代家老・奥平久兵衛はお家乗っ取りを企て、犬の乳で育って夜目が利く剣の達人・後藤小源太を召し抱え、邪魔になる「隠神刑部」と戦わせました。
刑部狸は小源太に、狸退治を思い止ってくれれば、あなたを一生守りますと約束し、心ならずも悪だくみの一味となり、お家騒動に巻き込まれました。
忠臣派は、宇佐八幡から授かった不思議な神杖を持つ豪傑・稲生武太夫を味方にして乗っ取り派を次々に征伐し、刑部狸をこの地の洞窟に閉じ込めました。
のちに刑部狸は長く松山藩に仕えた功徳に免じて罪を許されて、里人たちと仲良く暮らし、山口霊神に祀られました。