• 異世界ファンタジー

第四十三話について

今回のエピソード中に、三神の第二柱であるジェフティ神が登場しています。喚起儀式の詠唱の中で讃えられていた尊称から想像がつくと思いますが、ジェフティとはエジプト神話に登場するトート神の現地での呼び名です。イシスと同じく、トートもギリシャ語での呼称となります。

一口にエジプト神話と言っても統一された体系があるわけではなく、例えば日本神話の中にも高天原系神話と出雲系神話があるように、同じ言語的・文化的背景を持った複数の神話が集合したものです。それは一つには、エジプトの古王朝時代というのは長すぎて、時代とともに信仰の中心が移り変わっていったという事情があります。またナイルの上流である上エジプトと、下流域である下エジプトと、同一の文化圏の中でも人種や風習が異なる二つの国が存在していたことにも関係しています。余談ですが地図では北が上になるため、ナイルが地中海に注ぎ込む下エジプトが地図上では上、源流がある東アフリカの高地に近い上エジプトが下になるという逆転現象が起こっています。

エジプト神話には大まかに言って、信仰の中心地が四つあります。ヘリオポリス、メンフィス、テーベ、アマルナです。この中で日本で最も馴染みがあるのは、ヘリオポリス(ギリシャ語で「太陽(ヘリオン)の都市」の意)でしょう。ヘリオポリス神話に登場する神々は太陽神ラーを始め、拙作にも登場するイシスとその兄にして夫のオシリス、セト、ネフティスと有名どころが揃っています。

今回取り上げたジェフティ神、つまりトートは四つの信仰の中心のどれに属しているかと言うと、実はどれにも属していません。敢えて言うなら、ヘルモポリス(「ヘルメス神の都市)の意)という都市に属しているとも言えますが、実はエジプト全土で広く信仰されています。パピルスの発明者、神々の書紀というその権能が関係しているのかも知れません。神々の王であり、太陽神であるラーも同様に、地域と時代を越えて信仰されています。

トート神の大神殿があったヘルモポリスも五番目の信仰の中心に数えていいくらいの隆盛を誇っていたのですが、どの時代でも政治と信仰の中心地(大体において首都です)から一定の距離を取り、No.2の地位に留まっていました。この辺りも、派手な主役ではなく渋いバイプレイヤーを担当することの多い、トート神の面目躍如といったところでしょう。

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