小説内の第0話 「魔女の街ゼイラム」の内容を大幅に改めて掲載し直しましたので、アナザー世界塾バージョンとして、前の分を残しておきます。
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タイトル:第0話 「魔女の街ゼイラム」
「ゲハハハハ! 今日も今日とて、カモがネギ背負って歩いてるぜぇ!」
魔女の街ゼイラム。アメンゴ国のベイ・ステーター州にある、この古びたオカルトかぶれの街に、今日もドブ川の底から這い上がってきたような雑魚背黒鰯半魚人・ゲスカスの、ペチャッ、ペチャッという湿った足音が響き渡る。
彼の脳内を満たしているのは、かつて自分を拾った挙句に速攻で捨てやがったあのクソ魔女ルクレチアへの逆恨みと、「どうにかしてラクして大金をせしめてやろう」という邪悪かつセコい企みだけである。
「へへっ、魔女の聖地だぁ? 観光客どもがウキウキと浮かれやがって! 俺様がスリにかっぱらい、詐欺に横領のフルコースで、お前らの財布の底まで根こそぎ引っこ抜いてやらぁ!」
ゲスカスは鼻をほじりながら、17世紀の「ゼイラム魔女裁判」の悲劇を逆手にとった観光箱モノビジネスが大繁盛する『エクセレント・ストリート』を、我が物顔で闊歩する。
道中には、人気TVドラマ『マダムは魔女』の主人公サマンタを演じたエルザ・モンゴメリーの美しいブロンズ像が立っていた。
ゲスカスは通り過ぎざまに立ち止まると、ニチャリと笑って言い放った。
「ッペェ! んだよこの気取った女! どう見ても俺様の方が100倍イケメンだっつーの! わかるか? この潤んだウルメ目の魅力がよォ!」
不鮮明な滑舌でブロンズ像に唾を吐きかけるゲスカス。周囲の観光客からは「ママ、あの緑のお魚さん気持ち悪い……」「見ちゃダメよ、完全に不審者よ」と、通報一歩手前の冷ややかな視線を浴びまくっていたが、本人は全く気付いていない。
この港町自慢といえば、極上のシーフードだ。
「スパチュラ・シーフード」の店先からは、茹でたてのロブスター、濃厚なクラムチャウダー、香ばしいカキの匂いが漂ってくる。ゲスカスの胃袋が「ギュルルルゥゥ!」と盛大に鳴り響いた。
「うおっ、めちゃくちゃうまそうじゃねえか! おい、そこの店員! 街の重鎮にしてVIPのゲスカス様のお成りだぞ! ロブスターのフルコースを今すぐ持ってこい! もちろんツケだ! 金は……来世紀あたりに気が向いたら払ってやるよ! ギャハハ!」
「シッシッ! 魚臭いのが寄ってくるんじゃないよ!」
当然のように店員から冷淡にホウキで追い払われたゲスカスは、
「チッ、ケチくせえ街だぜ! 覚えとけよ! 夜になったらハードサイダーや魔女テーマの特製クラフトビールをタダで飲み干して、店ごとひっくり返して暴れてやるからな!」
と、三流悪役テンプレの捨て台詞を吐き捨てて脱兎のごとく逃げ出した。
観光客でごった返す土産物屋に潜り込んだゲスカス。
タロットカードや魔法の杖、呪文の書を漁りながら、ブツブツと独り言を垂れ流す。
「ただの木の棒がこんな値段すんのかよ、詐欺だろ! ……あ、でもこの水晶玉、パクって裏ルートで転売したら今日の酒代くらいにはなるか? ヒヒヒ……」
とリアルな犯罪計画を声に出していたところ、店主の殺気立った睨みつけに気づき、「ヒッ……な、なんでもないですぅ〜」と慌ててカニ歩きで退散する。
さらに足を進めると、国内最古のキャンディ会社「ジ・オールド・メアリー・カンパニー」に行き着く。
ここは1806年、難破船で全財産を失った女性が、近所からもらった「砂糖1樽」を元手に教会の階段で売り始めたという心温まる歴史を持つ店だ。聖地には「シブラルタル」や「ブラック・エース」といった伝説の銘菓が並んでいる。
レモンとペパーミント味で、最初は石のように硬い「シブラルタル」を見るなり、ゲスカスは鼻で笑った。
「ふん! なんだこの硬さは! こんなもん食ったら俺様の美しい歯が折れちまうぜ! いっそこれで観光客の頭を背後から殴って気絶させたほうが、金奪うのには手っ取り早いんじゃねえの! ひらめいたぜ俺様!」
由緒ある看板商品を凶器扱いする不敬極まりない発言をブチかます。
さらに、1830年からの伝統を誇る真っ黒なスティックキャンディ「ブラック・エース」を見つけると、
「おっ! これは美味そうだ! 試食用の皿ごともらっていくぜぇ!」
とひったくろうとした瞬間。
ゴォォォンッ!!!
「ぎゃああっ!?」
店のおばちゃんが振るった特大のフライパンが、ゲスカスの頭部をフルスイングで直撃! 派手に道路へひっくり返る。
「いてぇ! 痛ぇよぉ! この俺様の国宝級の美しい顔面に何すんだババア! 警察呼ぶぞ! 傷害罪だ!」
道端でジタバタと無様に暴れ回る姿は、通行人にとって最高に滑稽な無料(タダ)の見世物であった。
ゼイラムの奇妙さは店だけにとどまらない。
街警察のエンブレムは堂々と「ほうきに乗った魔女」だし、学校のスポーツチーム名も「ウィッチーズ」というぶっ飛び具合である。かつての魔女迫害の歴史を完全に振り切り、今や本物の現代魔女「ウィッカン」たちが大挙して移住。「誰も傷つけない限り、あなたの望むようにせよ(Wiccan Rede)」という平和的なルールや自然崇拝のサバトを謳歌しているのだ。
そんな街の一角には、悪名高いサタン教会(TST)の本部が鎮座している。元・葬儀場だった不気味なビクトリア調洋館だ。
悪魔を信仰しているわけではなく、政教分離や信教の自由を掲げ、州議事堂にヤギの頭を持つ両性具有の神「バフォメ」の巨大ブロンズ像を突き立てたり、科学と理性を教える「放課後サタンサークル」を展開したりする過激で知的なリベラル集団である。
そのギャラリーにしれっと紛れ込んだゲスカスは、バフォメ像を見上げて下品に腹を抱えて笑い出した。
「ひゃーっはっはっは! なんだこのヤギ頭の化け物は! 俺様に負けず劣らずイカれたツラしてんな! おいバフォメとやら! 俺様に金持ちの財産を根こそぎ奪い取る魔法をかけやがれ! そしたらお前の足元にへばりついて、靴でも舐めてやるよ!」
当然バフォメ像が動くはずもなく、数秒後には屈強な警備員に襟首を掴まれ、「アッー!」という悲鳴と共に、真冬の雑木林に捨てられる粗大ゴミ並みの勢いで外へ放り出された。
そして10月ともなれば、街は「ゼイラム・ホーンテッド・ハプニングス」の狂騒に包まれる。
人口わずか4万人の街に、1ヶ月で110万人、ハロウィン当日だけで10万人が押し寄せ、歩行者天国は異国のお祭り状態で身動きすら取れない。
霊能者によるサイキックフェアやグランド・パレードで街中が熱狂する中、ゲスカスは夜の「オールド・バリーイング・ポイント墓地(オバポ墓地)」のゴースト・ウォーキング・ツアーにこっそり紛れ込んでいた。
「へへっ、墓場だぁ? 幽霊が出る〜ってビビり散らしてる観光客のポッケから、財布をスリ取る絶好のチャンスじゃねえか! 俺様ってばマジで天才!」
冷たい空気が流れる中、無慈悲な裁判官ジェームス・ハソーンの墓石や、家族の土地を守るために自ら圧死刑を選んだジャイルズ・グローリーの伝説が眠る厳かな雰囲気。しかし、そんな歴史の重みなどゲスカスには関係ない。キョロキョロとウルメ目を光らせ、獲物を物色する。
「おっ、あそこのカップルのカバン、隙だらけだぜ……!」
しかし、調子に乗って散策路を踏み外し、墓石の陰で隠し持っていた財布を漁ろうとしたその瞬間。
ズルッ!
「うおっ!?」
足元を滑らせ、ゲスカスはドロドロの泥沼に向かって盛大にヘッドスライディングを決めた。
「ぐわぁぁぁっ! なんだこの泥は! くっせえ! 泥水が口に入った、ぺっ! ぺっ! ……ひぃぃぃっ! 裁判官の亡霊が俺様の足を引っ張りやがったぁぁ! 呪いだ! 呪い殺されるぅぅ! 助けてくれぇぇぇ!」
自業自得の転倒を亡霊のせいにして、恐怖とパニックでカニのように泡を吹きながら失神するゲスカス。
そんな彼を見たツアー客たちは、大喜びでスマホを向けた。
「うわっ、あそこの『ゾンビ半魚人』の仮装、クオリティめちゃくちゃ高くない!?」
「リアルにビビって失神してる演技が最高にウケる! パシャパシャ!」
大歓声とフラッシュの嵐を浴びるゲスカス。
その後、なんとか意識を取り戻したゲスカスは、映画『ホーカスプーカス』のロケ地であるコラソンの家の前を、泥まみれでズルズルと這いつくばりながら逃げ惑っていた。
遠くのオールド・ダービー・スクエア・ホールからは、魔女ウィニーの熱唱『I Put a Spell on You』の重低音がズンズンと響き、夜空には美しい花火が打ち上がっている。
花火に照らされた泥だらけのゲスカスは、夜空を見上げながらポロポロと涙をこぼし、血を吐くような声で誓った。
「覚えてやがれ……次は……次は絶対になけなしの小銭を奪い返してやるからな……! 覚えとけよぉぉぉ……!」
歴史の狂気と現代のフェスティバルが入り交じる、この世界一奇妙な街ゼイラム。
そこで今日も、ゲスカスの的外れで身勝手極まりない悲鳴と野望が、華やかな夜の闇に虚しくかき消されていくのであった。
(終)
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たとえ何らかの要因で改編され、新らたに収束した世界軸であっても、腐れ雑魚背黒鰯半魚人ゲスカスの愚かで陳腐なあり様は、あまり変わりの無いようだw