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歴史に詳しくないのにうっかり歴史/時代モノを書きたくなったので書いてみたらそれなりに書けたし、むしろ詳しくない方がいいかも??

 以下はカクヨムで公開中の拙作『流刃秘抄』について、私が何故歴史に詳しくないにもかかわらず書いたのか? ひょっとして歴史に詳しくない方がいい部分もあったかも? と気付いたことにまつわる考察やらなんやらをgdgd書いたものです。


【筆者が歴史に詳しくない方が、歴史/時代モノを書いても意外といいかも?読みやすくなるかも?と気付いたきっかけ】

「歴史に詳しくないけど読めた」って、読者さんからTwitterやスペースで2回くらい言われたので気付きました。
 ああ、もしかして逆に「書き手の私が歴史にそんなに詳しくないからこそ、読み手も歴史に詳しくなくても読みやすいものが書けたのかな?」って。


【そもそも歴史/時代モノ志向じゃないのに、なぜこういうのを書こうと思ったのか?】

 刀(西洋剣ではなく日本刀)で戦う話が書きたかったからです。カッコイイじゃん、刀。もうね、それだけ。
「えっ?歴史に詳しくないけど刀で戦う話なら、現代日本ファンタジーでいいじゃん?」
 ですよねー。私も最初そう思ってアイデア練ってた。キャラとか舞台設定よりも、「どういう過去や葛藤があって主人公は戦うのか? どんな経緯で巻き込まれるのか?」ってあれこれ考えるうちに、
「愛し合う男女2人のサブキャラが組織ぐるみで秘密裏に消された。女はかろうじて生き延びたが男の無念と恨みが刀に宿り、その刀が女の意志を乗っ取って殺戮を繰り返させる。だが組織の側にうしろめたい動機があったので真相は糊塗され、それを知るのは一部のみ。主人公は巻き込まれる形で襲い来る刀と戦う」
というアイデアが出てきた。
 そして気づいた→この発端って、落武者を村ぐるみで殺したのが発端の『八つ墓村』に似てる! でもあれっていつ頃の話? 落武者ってどこの戦国大名が戦って負けたヤツ? そんなよくわかってない時代背景じゃ書けないし……。

 あっ。
 落武者と言えば、平家じゃね? 八つ墓村とは違うけど。
 源平合戦なら小中学校の歴史で習うし、平家の落武者って言えばなんとなく読み手も共通認識ありそう。鎌倉幕府ができたあとに平家かくまってるのなんかバレたら絶対やべえぞ!って村ぐるみで落武者と恋人も頃して隠蔽しようとしても、「ああー、そういうことありそうねー」って現代人にもだいたい納得してもらえそうじゃん。
 なので時代は平家滅亡直後になった。

 こうして、大して歴史に詳しいわけでもなく、そもそも歴史/時代モノ志向でもない私がああいうものを書くことになりました。

 でも、あの時代の服装とかざっと調べたけどよくわかんない。特に農村部の庶民。粗末な和服なんだろうけど、それ何て呼ぶんだ? ……もう野良着で通じるだろ。下手に当時の呼び名を出しても読者がピンと来ねえだろ(書き手もだw)。小坊主は墨染めの僧衣で良さげ。

 ……困ったのは主人公だ。
 そもそもこいつ「侍」って言っていいの? 当時そんな言葉あったの? てか、単なる刀鍛冶の一族で腕っぷし強いだけで誰にもお仕えしないでフラフラしてるってアンタ何www

 作中冒頭で村人に「あんた侍か?」って聞かれて「そうだが」って即答してるけど、あれ本当は本人困ってるのよ? 内心を正直に書くなら、
「(チッ、なんでこっちの質問に質問で返すんだよ…でも女を探してる理由つっこまれるのぜってー避けたいし、まあ刀持ってるから侍だって言ってくれるんならもうそれでいっか)そうだが」
 ぐらいの感じ。正直ホント「侍」って言葉を使うの迷ったんだけど、最初は1万文字までの読み切り短編にするつもりだったので、読者が主人公をイメージしやすい端的な言葉として「侍か?」「そうだ」て言わせちゃいました。

 あと、外見の話にしても、服も髪型も描写してないんですよ。
 だってまげの名前わからんしってか、支配階級はともかくとして、この時代の農民や庶民って髪なんか自分で適当に縛ってるだけじゃね? えっ違うの?? ご存知の方いらしたらご教授下さいm(_ _)m

 外見描写しなかった理由は文字数制限もありました。
 書いてるうちにカクヨムコンがあるのに気付く→10万文字は無理だが短編2万文字ならいける?まあとりあえず書いてみるか→時代っぽい描写なしで書いたけどまあそれっぽく書けた気がするし既に9800字もあるからこれ以上描写増やせないや。

 みたいな感じ。
 あとね、半端に調べてそれっぽい衣服とかの単語を入れて描写してもかえって付け焼き刃にしか見えなさそうで、それは絶対避けたい(そういうプライドだけは高いw)。
 じゃあどこで時代モノっぽさを出すか。
……そりゃあもちろん、文体でしょう(キリッ)。
 もともと、古びた文体で書くの好きだし。一時期、大正クトゥルフにも凝ってたので。無闇に古めかしい言い回しで書くのキモチイイので。中学高校と古文・漢文を真面目にやっててよかったー。
 今回、特に気をつけてたのが「自分」て単語をなるべく使わないこと。出来る限り「己」って書いてた。
 ただし、この作品の登場人物は昔の日本人ほど滅私奉公とか自己犠牲したがらず、自分のために生きる、かく有りたい自分のために生きるってポリシーが強いので、そういう場合はあえて「自分」って書いてます。近代個人主義の先取りですね!(ええっ)


【歴史の知識を説明・補完する描写の必要性とは?例:『流刃秘抄』第2話:藤戸合戦】

 通常、合戦描写で必要とされる要素を思いつくまま書き出してみると…。

 人名、地名、具体的年月日(西暦・和暦)、人物関係(敵、味方、中立、寝返り)、周辺地理、勢力図。……他にもありそうですが。

 流刃秘抄2話では、カギとなるイベントとして藤戸合戦があります。
 作品自体は、その合戦の後日談がメインストーリーですが、前提である藤戸合戦の説明が当然必要です。
 小説内では、主人公2人に対して地元の子供たちが聞き知った噂話を口々に語り聞かせた内容を地の文で描写します。
 なので、通常の歴史小説なら詳細に語られるべき内容がかなり省かれています。
 結果的にこの場面で述べられるのは、

・藤戸合戦は今からだいたい1年半前(具体的な年月日は出ない)
・手柄を立てた源氏の武将=佐々木盛綱の名
・源平両軍が布陣した地名
・その間は複雑な入り江の地形で阻まれる
・平家に船はあるが源氏にはなく膠着状態
・盛綱の活躍で源氏が勝ち、平家軍は敗走し結果は壇ノ浦に沈む
 
 たったこれだけ。
 けど、これを歴史モノ好きな人が書いたらきっと…

・藤戸合戦の正確な年月日(和暦/西暦、旧暦何月何日、まで)
・源平両軍の総大将の名前
・両軍の具体的な兵の数
・藤戸合戦に至る歴史的経緯
・合戦場が藤戸になった地理的理由
・なんで平家には船があって源氏にはないのか
・佐々木盛綱が馬で浅瀬を渡ったと言われる具体的な距離

 などなど、もっといろいろ書くかもしれない。
 でも私は、そういうの知らなかったので、書けなかった。
 でも、小説としてはこれで成立したし、結果的に「歴史に詳しくないけど、読めた」と言ってもらえた。

 つまり、歴史に詳しくなくても歴史/時代モノは書けるし、むしろ詳しくないからこそ間口の広いモノが書けた。


……いや、わかる! 歴史が好きなんだからいっぱい知ってると、いろいろわかると面白いっていうこと! そういうのガンガン出てくるのこそ、歴史小説! 時代小説! そういう雰囲気が大好きだから書くんだ!ってことでしょ?
 中学歴史で出てこない人名、役職名(なんとかの守、受領、とか?)、身分の上下に関わる用語(大納言とか中将のなんとか)、血縁関係(養子とか分家とか婿とか)、敵対・同盟関係(裏切り、裏切られ、裏で繋がってるのどうの、陰の勢力)、コロコロ変わる年号(和暦)が醸し出す雰囲気! 魅力的で面白い要素いーーーっぱいあると思う。知って欲しい。書きたい。わかる。

 でも、それ全部把握できてないと、あなたの小説の面白さはわからないですか?(´・ω・`)
 あなたの「好き」「書きたい」のためには不可欠な要素ですか?

……あっ、絶対書きたい!? 書いてる俺が楽しいから書く!? なるほど!! ごめんね余計なことばっかり言っちゃって! そういうことならわかった!! なら、ぜひ書いて!!


 あなたの「これを書きたい」「これが好き」それが一番大事だ。それを守れるのは、あなただけだから、あなたが守れ。
 あなたが書きたい時代、人物、モチーフ。それを好きな気持ちは誰が何と言おうと守ってほしいです。


 そして、そんなあなたが「好き!」をいっぱい詰め込んでゴリゴリ書いたヤツを「こういうガッツリ書かれた歴史モノ、読みたかったんだよ〜やっぱこれぐらい歯応えがないとな〜」ってバリバリ噛み砕いて味わってくれる人とつながれるような方法とか宣伝とかあるといいよな!! ……ホントは俺が知ってたら一番いいんだが…(´・ω・`)ごめんよ。俺も知りたいわ。

 あっでも1個思いついたのは、年号(和暦)の書き方。
 現代の一般人にとっては数年でコロコロ年号が変わること自体が大変なことです。歴史好きな人にとっては「それこそがその時代の雰囲気なんだろうがよ!!」とお思いでしょうが、令和に生きる凡人には理解のハードル爆上がりです。
 なので、たとえば◯◯という年号のA年とB年とC年にそれぞれ説明すべき出来事があった場合、年表みたいに「◯◯A年にこういうことが起き、B年にはこう、C年には…」ではなく、
「◯◯A年にはこう、それから僅か二年でこれこれ、さらに翌年には…」
みたいに書くとか、どうすか? 読みやすく、かつ時代の雰囲気も残るかなと。
 あと、年号が変わるのをまたぐ場合は「××(←新しい年号)の御代になる頃には…」とか書くのは?
 西暦との併記「◯◯元年(西暦ウン年)」て書くのも、情報量が多くなるのと、その時代観へ没入してたのが現実に引き戻される感じがして案外負担に思えます。海外との対比が必要でなければ和暦記載のみでいい気がします(個人の見解ですが)。


 でもですね、ひとつ言っときます。
「こうやったらもっと読まれるよ」とか、いろいろアドバイスする人いるだろうけど、それ1から10まで全部聞く必要はないです。そういうの全部鵜呑みにして実行してたら、あなただけの作風が解体される危険性がある。
 だから、それを壊されることがないと思えばアドバイスは取り入ればいいし、壊されると思ったら一旦保留でいい。
 解体されて、それでも残るものもあるし、再構成されるものもあるけど、でも「好き」とか「気持ち」はね、壊れると取り返しつかないことあるから。

……まあ、そもそも私が書いたのは伝奇だしね……歴史そのものを書いた小説じゃないし。
 うむ! これは繰り返し自分に言い聞かせとかないとダメだぞ! 


「私が書いたのは、歴史小説でも時代小説でもありません! 舞台がこういう時代だっただけ!!」


 まあでも折角いろいろ考えたことだし、なんかの参考になる人おるかも? と思ったので書いてみました。こいつ分かったふうでエラそうなことばっか言いやがって!! とかお感じになったら私の不徳の致すところです申し訳ありませんm(_ _)m

 そもそも、「単に源平合戦という中学レベルでも知ってる時代背景を選んだからそうなっただけじゃん?」て気すらして来たしな!! 自戒自戒!!(だいたいそれで反省したつもりになってるヤツでした!)

(おわり。)

4件のコメント

  • >近代個人主義の先取りですね!(ええっ)

    そういや「自分」という観念が出てきたのは明治以降の小説とN師から言われたことがあります。夏目漱石とか「破戒」とかかしらね?

    自我とか自他境界の感覚も厳密にいうともっと後の文学で取り扱うようになったのか?

    まぁ自分でも令和の現代人が「とある時代」への想いを、同時代人に語るスタンスで書いているのかも。
    映画「陰陽師0」の冒頭、北村一輝扮する陰陽博士が平安の言葉使いでしゃべるんだけど、観客も理解できないから秒で現代語にチェンジするそれをちょっと思い出しました。
  • コメントありがとうございます。
    実在の時代ですが、登場人物のほとんどとストーリーがフィクションなので、現代人的価値観に有る行動指針で描くことで結果的に歴史物に馴染みがない方に共感・応援してもらえるお話にできたと思います。
    言葉を当時そのままにして陰陽世界観をブチ上げて速攻で吹き替えるのも上手い手法ですね!
  • 私などは元号だと、年の途中で変わることが一般的なので、読みやすさとして西暦表記をしています。

    8月までは〇〇という元号なのに、二十五日からは▲▲という元号になってると年がいつ変わったの?みたいな時間的空白の把握がしにくいと考えています。そこの説明よりはもっと書きたいところありますし。
  • コメントありがとうございます。
    年の途中で元号が変わるのホント困りますよね。
    「もっと書きたいところ」「伝えるべきところ」考えないとですよね。
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