四月二十二日
二年に進級してニ週間弱。後輩も出来たのに受験なし楽々内部進学なので高校生になった実感が未だに湧かないのは我ながらいかがなものだろうか……。
こほん、俺の名前は石田大和(イシダダイワ)という。よろしくな。
中高一貫校である『白河桜華学園』の高等部ニ年。何処にでもいる普通の男子高生だ。
ラフな格好と端正な顔立ちのせいで周りからヤリチンやプレイボーイなどと陰口叩かれているが俺は童貞だ。幼馴染以外とは未だにたどたどしい日本語になってしまう。
勘違いして遊び慣れたギャル達が誘ってくるも本性知ると逃げていく。
なので小学から一緒の幼馴染達と今も付き合いがあるのであの頃より変わらない日常はここにあった。
「勘九郎、今日はバイトあるのか?」
「いや、僕は非番だよ。たまには勉強しないとね。大学も視野に入れているからさ」
「へー、大学行くつもりなんだカンタはー。てっきり料理学校かそのまま料理系に就職かと思っていたよ。ね、ホクト?」
「そうだね。黒田君は料理の腕プロ級だから」
皆から褒められてニコリと微笑むも、勘九郎は嬉しいのか嬉しくないのか表情がいまいち読めない。
昼休み。私立白河桜華学園はランチタイムで和やかなムードになっていた。
クラスメイト達はスマホや小説を眺めながらまたはラジオ番組風放送を聴きながら思い思いに飯を食べる。
ちなみにお題に投稿しても読まれたことがないから放送部は嫌いだ。
俺と幼馴染達も共に食事をとる為机をドッキング。今日も食事をとりながらとりとめのない話に花を咲かせている。
だがしかし、中等部では別々だったので、こいつらと共に過ごす昼休みは未だに慣れない。
隣でぽややーんとしているこいつは黒田勘九郎。眼鏡と天然パーマがトレードマークの俺の親友。
その向かいでイケボの耳掻きボイス聴きながら恍惚しているこいつは糟屋陽輪(カスヤヒノワ)。ボーイッシュな陸上部のエース。ショートカットで男っぽく振る舞っているがこれでも女子だ。
そして俺と対面しているビスクドールみたいな美少女は福島北斗(ふくしまほくと)。少食で静かにもぐもぐと食事している姿は白ウサギのようだ。北欧のクオーターだからなのだろうか、色白の肌と珍しいシルバーブロンドが何かと人目を引く。
とにかくため息が出るほどの美少女なのだ。クラスの大半は男女関係なくチラチラ覗き見ている。
陽輪と北斗は学園の七大美少女と称され、新聞部が特集を組み考案した戦国武将の性にちなみ、『賤ヶ岳七本槍』などと呼ばれて迷惑していた。無論七本なので校内にはあと五人存在、そのうちの一人加藤統星(カトウスバル)は同じクラスだ。
クラスの人気者でカリスマ優等生として学校側にも認められている。
そして幼馴染以外では少ない北斗の親友だ。
「勘九郎の弁当美味そうだな。ハンバーグくれ」
「自信作だよ。趣味だからね」
「羨ましいな。カンタこれ貰うようずらの玉子」
「…………美味しそう」
俺達の厚かましい願いを聞いてくれる勘九郎は神だろうか? 友に感謝です。
味を噛み締めて食べた。もう勘九郎が俺の嫁でいいんでない?
「放課後このメンバーで遊びにと思ったけど、北斗は今日も部活か?」
鉄面皮な北斗はこくっと頷く。相変わらず演技以外だと表情筋が鋼鉄並に硬い。こんなでも演劇部のメイン張っているのだから世の中分からない。
北斗は学園の制服である青いチェックのネクタイ、 白河桜華学園校章入りの青いブレザー、 青いチェックのスカートを基本装備。アレンジは特にしてないが俺がガキの頃縁日のクジで取ったヘアピンを後生大事に付けている。もうボロボロだから捨てろと言っているのに験担ぎだから駄目と断られる。
「ダイワもそろそろ本気で勉強しないと留年するよ」
陰キャラながらブレザーが似合う勘九郎に説教された。
分かってはいるが毎日遊び呆けている俺は将来設計がまるでできてない。
「ヒノワ先輩と呼ばせるのも面白いけどね。野球バカのあんたから野球とったらただのバカなんだからマネージャーでもいいから関わっていればよかったじゃん」
元気娘を地で行くジャージ姿のヒノワに色気はない。
余計なお世話だと会話を切った。俺は怪我で野球に見切りをつける。体育会系は絶望的なのに今更何をやれと言うんだ?
大体俺は本当は体育会系ではない。社交的でもない。ただお調子者を演じているだけだ。それがこの世界での俺の役割。
俺には前世の記憶がある。嘘だと思うだろう? 数年前いきなり過去が覚醒して俺も頭がおかしくなったと悩んださ。だってそうだろ。
ここが前世でプレイしたエロゲー、『彼女が大親友にNTRされた僕は校内一のカリスマ美少女へ嫌われているけど毎日軽い気持ちで好きだよと言い続けた結果、暫く会ってなかったら有無を言わさずベロチューされた』そっくりの世界で、大好きなキャラ達が目の前にいるんだからさ。
しかし残念ながら勘九郎が主人公。
そして俺は不人気キャラの間男だ。ざけんな。どのルートに進んでも勘九郎裏切って破滅決定は避けられない。
こんなのは夢だ。冗談きつい夢に決まっている。
だったら誰にも関わらず残り三年間を過ごすしかないが、せめてこんなふざけたシナリオブッ壊して、同じ破滅が待っている北斗だけでも幸せにできないだろうかと模索していた。
福島北斗は俺の最推しだ。ゲームのキャラなのに恋をした最初で最後の相手。
なんとか彼女を笑顔にしたい。