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久保田弥代さんへ

 今回のコンテストに応募したのは四作品、一般小説の処女作と最新作、ファンタジー小説の処女作と最新作だったのですが、その内の私にとっての小説における処女作である『ゴルバチョフの午後』に誠に丁寧なご講評いただきありがとうございました。

 以下、見苦しいですがご指摘の内容に対して、申し開きというか、自分の意図を書かせていただきます。

 
“残念ながら、それを第三章でぶち壊しにした感があるのだ。『あの時の依頼は失敗していたということに他ならない』というのであれば、第二章を読みながら感じた「センス・オブ・ワンダー」もまた、まがい物だったのか、との思いに囚われた。第二章で、この先どんな終着点へ連れて行ってくれるのか、と感じた期待が霧消してしまったのだった。
 最終的には、超越者のような存在を仄めかしたり、誰もが入れ替わっていて……といった別の解釈へ、一応の着地を見せてはいるものの、それもどこか空々しい。

 それは、ムカイサチコが「全容を知っている」ものとして描かれてしまったからだった。夫の行いどころか、『誰かが記号をいれた』と、自分たちを包含する大きな存在ですら既知としてしまった彼女。その存在感は、記号を入れた『誰か』に並ぶほど大きかった。
 なぜなら彼女は、『記号』による入れ替わりを可能とした中で、『記号』が通じずに入れ替わりを見破っていたことになるのだから。

 ムカイサチコが「理解」を示してしまったことで、物語の中で起こっていた「不可思議なこと」は、実は不可思議ではなく人間の理性と知性で咀嚼できる範疇のことだった、と読めてしまうのだ。
 ここに、「センス・オブ・ワンダー」の着地点としていささかの残念さがあった。ムカイサチコを騙せなかったそれは、すでに「ワンダー」ではない。

 この結末が、「ワンダー」を殺さないような、それでいて『記号』というものの“怖さ”のようなものを読者に植え付けるような内容で描けていたら、良作とするに躊躇のないものになっていたかもしれない。惜しまれる次第だ。”


 上記に関しましては、意図として「女はすべて知っていた」と描きたかったのです。妻であり母でもある女は、男がさも自分がすべての手綱を取っているように考えていてもさらにその上を行っていて、そしてその上でもこの家族ゲームを、得体の知れないものと知りつつも続けることができるのだという強かさを描きたかったわけです。要するに旦那の浮気を承知の上で良き妻を演じる女に近いものです。そしてそのため主人公はより一層混乱してしまうというオチに持ってこようとしたのですが、下記のように描写が弱いためそれができなかったのだと思います。


“そうした結末の弱さを助長する結果になったかもしれないのが、第二章の描写の弱さだったろう。
 第一章のおそらく半分程度の分量か。ここで、いかに探偵が「怪しまれないか」を打ち出すことで、『記号』の効力を読者に見せつけるべきところを、肝心なそこを避けてしまったように思われた。第一章ではタバコのことなど、細々と描写してきた語り手が、第二章でムカイ家に入った途端、ほとんど内面描写マシンと化して行動を語らなくなる。語られなかった行動、すなわち彼が担ったはずの『父としての記号』『夫としての記号』としての部分こそ、読者に見せるべきものだったのではないだろうか。それとも『記号』とは、身に付けたスーツであり香水といった、外部的な要素でしかなかったのだろうか。

 せめて第二章で「記号とはいかなるものなのか」を読者に具体的に提示することが出来ていれば、今の結末の弱さを救うことが出来たのかもしれない。”


 次に以下のご指摘で、上記にも関係することなのですが、この作品が処女小説だったため、また提出期限のある作品だったので、小説の書き方が分からずすっ飛ばして誤魔化そうとしたのです。なので最初だけが丁寧な作りになり、その後に駆け足になりアンバランスになってしまっているわけです。申し訳ありません、さすがにプロの目は誤魔化せませんでした。


“同様の観点から、こちらは逆に書きすぎになっているのが第一章と序章の部分だ。
 極端に言ってしまえば、第一章は書かなくても良い内容ではないだろうか。第二章のようにいきなりムカイ家の前に立った探偵が、「奇妙な依頼を受けた。それは――」と述懐し、進展に応じて短い回想・記憶の反芻を挟めば足りてしまうはずである。その方がツカミも良い。
 その部分が、作品全体の半分を占めている。構成上、アンバランスさを感じるところだ。描写も、この第一章では比較的詳細なものの、以降があっさりしたものになってしまい、これまたアンバランスだ。描写の質を作品中で変化させる技法はありえるものの、本作の場合、第二章以降を密にする方が読者への効果を考えた場合に正しいと思われるが、いかがだろうか。

 また序章は、現時点ですでに意味があるようには思えなかった。主たる内容は第三章で繰り返されてしまうし、ここで人物の描写をがんばっても、直後の第一章は過去の話にシフトしてしまうのだ。あまり有益ではない。”


 校閲に関してはまさしくその通り、としか言いようがありません。未熟さを恥じるばかりです。

 重ねて丁寧で誠実なご講評にお礼を申し上げます。今後とも、是非ご指導ご鞭撻をばよろしくお願いします。

1件のコメント

  • _(´ㅅ`_)⌒)_ ご返信痛み入ります。

    レビューでは「純文学」というタグにちょっと引っ張られていた感があるし、やはり書き慣れない段階の作品だったのだなということで、こちらでももうちょっといっときましょう(それにしても初書きとは思っていなかったので、だとしたら上出来の部類だとは思います。そこはちょっと自信にしてください)


    妻のしたたかさ、というのを見せたいということについては、彼女が「離婚」してしまっていることで、効果が薄くなってしまいますね。あの家庭生活を飲み込めない弱さがあったからこその離婚なのでしょうし。少なくとも、第三章の場面では彼女は、したたかであることを諦めてしまっている。
    離婚するなら、もっと打算的で悪女のような理由が欲しかったところです、「解散」という諦め混じりの結末ではなく。(解散というイメージはこれはこれで面白そうなのですが、まぁ別の話ですね)

    したたか、というならば、こちらをコントロール出来ていると思い込んでいる夫を逆にコントロールして、今なお、安楽な家庭生活を過ごしているとでもした方が、(演出として)読者に伝わりやすいでしょう。

    キャラクター、人物に、「外から(作者から)見て」役割を与えるのではなくて、その人として(作中には“実在”する、生きた人間として)相応しい行動や思考を描き出したいところです。



    純文学というところから離れて、エンタメ大衆小説的な見地から考えると、『記号』という、そこだけ見ると超常的・SF的である小説内小道具が、本当に超常的な存在だったのか、現実的に飲み込めるものだったのか、それとも単に夫の思い込みだったのか、これが微妙に分かりにくい結末になったのが、あまりよろしくなかったのでしょう。
     道具立て自体はとても面白いものだったのですが。


     超常的と見るなら、妻がそれを「知っていた」ことが腑に落ちない。彼女が理解していることで、それは超常ではなく現実の地平に引きずり降ろされるからです。そしてそもそも、夫もなぜそれを理解して利用出来ていたのか分からない。

     現実に飲み込めるもの――家族たちの暗黙の了解とか、催眠的なことでしょうか――だとすると、妻が「植え付けたもの」に言及するのが不格好。夫が知っていたのは、そうなるように仕向けた黒幕だという考え方は出来ますが。

     夫の思い込み――妻や家族の方が、夫にそのような思い込みを植え付けた、というのも、同様に「植え付けたもの」への言及が矛盾を生みます。探偵を混乱させてやろう、という意図で嘘をついたのだ、と考えることは可能ですが、そうするメリットが「読者を混乱させる」こと以外に思いつかないので、「作中人物」である(つまり読者の存在など関係ない)彼女には、結局嘘をつく理由が見当たらない。


    このように、現状ではあまり綺麗な着地を見せていない印象です。
    探偵は混乱していますが、それは「小説」として作者が、読者に向けて作り出した混乱のように思われ、作中の世界を乱しているように見えます。

    こうしたところを弱点と捉え、潰していき、作中世界が矛盾なく(不思議はあってもいい)成立するように出来れば、また一層、面白さが増すように思います。

    そうした方向で改作されたら、また読んでみたいですね。『記号』のアイデアは面白いと思っていますので(SF的な興味ですけれども)。


    また長々と失礼しました_(´ㅅ`_)⌒)_ 
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