「さて、これからどうしたものか……」
メイルストロムの町に居座ること2日。
暇を持て余していた司は、川釣り興じていた。
鎮静の儀式は無事終わり、メイルストロムの町が滅ぶ兆候は今の所見られない。
「ふわぁあ……そろそろ、ウッドフォレストに戻ろうかな……」
メイルストロムの町の近くにあるのは、別に助けに行かなくても物語の進行に影響を与えない町ばかり。
元々、メイルストロムと共に滅ぶ予定だったためか、町の設定も適当だ。
メイルストロムの近くには、エスタール王国に黙って魔導兵の研究をしているソルジャの町なんかもあったりする。
「……流石の俺も魔導兵相手に戦いたくないし」
エスタール王国に黙って魔導兵の研究をしているだけあり、秘密を知った者の対処に余念がない。
もし俺がその町に入れば、その瞬間から監視が付く。そして、町に秘められた秘密を知った瞬間、町の人全員が敵キャラに変貌するのだ。
もし捕まれば、例え主人公であろうとバッドエンド……
「そんな危ない町には近付かないのが一番っと……」
そう言って、川に糸を垂らすと、着水した瞬間、糸が思い切り引っ張られる。
「う、うぉ!」
これはデカいぞ!
もしかしたら、この水域の主かも知れない。
「ぐ、ううっ……!」
糸が切れぬよう、糸に魔力を流すと、司は釣竿を引き上げる。
「フィーッシュ! って、は? 魔導兵ェェェェ!?」
ガシャ! ガシャガシャ!
魚ではなく釣り針に引っ掛かりガシャガシャ動く魔導兵を見た司は、目を丸くする。
そして……
「『反転』」
反転のスキルで魔導兵をスクラップに変えると、何事もなかったかのようにスクラップを川に突き落とした。
「……おかしい。なんで鉄くずが釣り針に」
もしかして、この世界の鉄くずは釣り餌で釣れるのか?
そんな馬鹿なことを考えていると、司の高過ぎる直感が川の異変を察知する。
「……っ!? マジかよ!」
川に視線を向けると、至る所から魔導兵の目が浮いていることに気付く。
「ここに来て魔導兵の反乱イベントかよ!」
魔導兵の反乱イベント。
これは、エスタール王国に魔導兵の研究がバレてしまったソルジャの町がヤケクソとなりどうとでもなれ精神で魔導兵を暴走させるイベントである。
しかし、川から侵攻してくるのは予想外だ。
どこの馬鹿がエスタール王国に魔導兵の存在をチクったのだろうか。
ウィーン、ガチャ
陸地に着陸すると、魔導兵は町の方へと駆けていく。
「させるかァァァァ! 『反転』!」
『ガガガッ……ウィーン、ガシャ……』
スキル『反転』を駆使し、魔導兵をスクラップに変えると、司は大声で叫ぶ。
「大変だァァァァ! 魔導兵が現れたぞォォォォ!!」
叫び声を上げた瞬間、闇の大臣、フロッグの配下が現れる。
「――ご安心ください、邪神様。ここから先には通しません」
「おおっ……!」
原作では、事あるごとに主人公の邪魔をしてきたフロッグの配下が仲間に……これは今までにない反応だ。
フロッグの配下が横一列に並ぶと、地面に杭を打ち『KEEP OUT』と書かれた黄色と黒のテープを張り巡らせる。
フロッグの配下が得意とする不可侵領域設定だ。あのテープを貼られた場所は、立ち入りできなくなるゲームマスター側の権限。
ウィーン、ガチャガチャ!
ピョーン!
しかし、フロッグの配下と同じ、ゲームマスター側の力を持つ魔導兵に効果がないようだ。
魔導兵は、フロッグの配下達を飛び越えると、町に向かって駆けていく。
「馬鹿野郎ー!」
思わずそう言うと、フロッグの配下が手を付いて謝罪する。
「申し訳ございません。まさか、我らが不可侵領域を飛び越えていこうとは……」
「何、クソ真面目なこと言ってんだ! どうでもいいから魔導兵を止めろ!」
期待に応えることができず、ガッカリするフロッグの配下達を叱咤すると、司もテープを飛び越え魔導兵を追う。
「いいか! 一歩も町に入れるなよ! そのテープは全然効果がないから魔法か肉弾戦で敵を撃退しろ!」
「「「御意」」」
元々、最終章近くに出てくる敵キャラだけあってフロッグの配下はレベルが高い。
魔法戦か肉弾戦。そのどちらかでの撃退を指示した以上、魔導兵が町に入ってくることはないだろう。
問題は町に入った魔導兵だ。
魔導兵には自縛機能が備わっている。
万が一、魔導兵が町中で爆発したら大変だ。
「こうなったら……」
司は『邪神の漆黒衣』をアクティブ化すると、魔導兵に向かって邪神の触手を伸ばす。
ウィーンガチャガチャガチャ!?
「――『反転』」
そして、触手で絡め取った瞬間、『反転』し魔導兵をスクラップに変えた。
その瞬間、崩れ落ちるスクラップ化した魔導兵。
「ふぅ……なんとかなったか……」
正直、町中で邪神の漆黒衣を使いたくなかったが仕方がない。
町中で魔導兵に爆発されるよりマシである。
ざわざわっ
――ざわざわっ
魔導兵の侵入に町がザワつく中、ようやく兵士達がやってきた。
「こ、これは一体……!? ちょっと君、話を聞かせてくれないか?」
……しまった。完全に逃げそびれた。
後ろを振り返れば、フロッグの配下達は魔導兵の残骸を残し消えている。
どうやら、フロッグの配下達は俺を置き去りにして逃げたらしい。
観念した司はため息を吐くように言う。
「――はい。わかりました」
そう呟くと、司は事情を説明するため、詰所に向かった。
◆◆◆
「――なるほど、つまりあれは、ソルジャの町で秘密裏に開発されていた魔導兵で、エスタール城に向かっていたのではないかと……そういうことか……?」
「はい。おそらく……」
メイルストロムの町は、ソルジャの町とエスタール城の中間にある。
魔導兵は、おそらくエスタール城に向かうついでに、メイルストロムの町を襲ったのだろう。
聴取をしていた兵士は、腕を組み唸る。
「うむむ……しかし、信じられんな。ソルジャの町が魔導兵の研究をしていたとは……」
魔導兵は、過去に魔王が投入した戦略兵器。
兵士からしてみれば、これと言って特徴のないソルジャの町がなぜ、魔導兵の研究をしていたのか疑問なのだろう。
しかし、それは俺も同じ。明確な答えなんか持ち合わせていない。
「まあ、そこは自分で調べてもらう他ありませんね。俺は知っている事実を話しただけなので……」
「そうか……協力感謝する。もしまた魔導兵が襲ってくるようであれば、力を貸して欲しい」
「ええ、もちろん協力させて貰いますよ」
魔導兵の反乱イベントは三日三晩続く大規模イベント。メイルストロムの町を滅ぼさないためにも死力を尽くすしかない。
「――あっ! そうだ……1つ思い付いたことがあるんですけど、実行してもいいですかね?」
そう呟くと、司は悪い笑みを浮かべた。
◆◆◆
「ほ、本当にできるのか?」
「ええ、任せてください」
兵士から承諾を得た司は、海に向かって手を向ける。そして……
「――敵が海や川からやってくるなら海辺を凍らせればいいじゃない。ということで、氷魔法『ブリザガ』!」
海と川を氷河化し、氷の壁を築き上げると、兵士が目を剥いて驚く。
いやー、最初からこうしていれば良かった。
魔導兵は、最短距離でエスタール城に向かっている。
そして、魔導兵の稼働時間は3日。
つまり、3日経てば、勝手に動かなくなる。
ちなみに、兵士に話を聞いて初めて知ったことだが、この辺り一帯の魚は数日前(俺がこの町に来た辺り)からどこか遠くに行ってしまったらしい。
俺がこの町に来てすぐ、海域にはリヴァイアサンがいたし、きっと、魚はリヴァイアサンを恐れどこかに行ってしまったのだろう。
リヴァイアサンを倒すためとはいえ、海に『いなずま』を叩き込んでも魚が浮いてこなかったからおかしいと思っていたのだ。
「さて、これでしばらくは安心かな?」
あとは、3日間籠城していれば、すべて丸く収まる。
魔導兵は単純な命令しかできないので、回り込まれる心配もないだろう。
「仕事も終わったし、しばらくの間、ゆっくり過ごすかー」
折角なので、この間に魔導兵の研究をするのもいいかも知れない。
何せ、ここにはスクラップ化した魔導兵がいくつもある。
「楽しみだなぁ……」
氷河化した海を見て目を剥く兵士達を前に、スクラップ化した魔導兵の腕を持った司は黒い笑みを浮かべた。
その様子を見ていた兵士は皆揃って唾を飲む。そして、心の中で大きな声を上げた。
「「(な、な……なんじゃこりゃああああっ!?)」」
海を見れば、まるで壁の様な氷河が聳え立ち、目の前には、魔導兵のスクラップを掴み笑みを浮かべる男がいる。
「(お、おい! 領主様になんて報告すればいいんだよ!?)」
「(知るか! 俺が知るわけないだろ!)」
兵士達が困惑するのも当然だ。
何せ、目の前で規格外な事が起こっているのだから。
「……うん? もう終わったし、行ってもいいかな?」
「「は、はい! どうぞ!」」
兵士が揃ってそう言うと、司は首を傾げる。
「(とりあえず、領主様にはありのままを伝えよう)」
「(ああ、そうしよう)」
困惑する司を前にそう話し合うと、兵士達は互いに頷きあった。
その翌日……
「井上司。領主様の命令により貴様を連行する!」
「へ?」
宿を出て早々、兵士長を名乗る男にそう言われ手錠を掛けらると、司は困惑した表情を浮かべた。