ジャングルの奥へ、奥へと進むにつれて、現実と非現実の境界線が曖昧になっていく。ここは本当に平成なのか? それとも、本当に戦時中の沖縄なのか?
地図によると、この先に井戸があるという。目印のガジュマルの木は、巨人兵のように三人娘を招いている。サラは、自分じゃなければこんな地図読めないだろう、先生も小学生並みの空間認識力だと思った。「ガジュマルの木が目印だって? このジャングルに何本のガジュマルがあると思ってんの?」それでもサラは、高倉の好みを十分すぎるほど知っていた。
彼が好きな“母なる木”ぐらい、サラにはわかっている。
サラが指さしたのは、幹に奇妙な模様が刻まれた古木だった。そこは森がひらけている。御嶽(うたき)だとサラは思った。神様の導きのもとに、三人娘は守られていた。
その時、藪から蛇のようなガサガサという音がした。驚いたのは意外にもランだった。このへんにはハブがいるのだろうか? ——ハブ! 沖縄のジャングルに潜む毒蛇。想像しただけでゾッとする。
足早にその場を離れようとした時、茂みの中から、今度は別の音が聞こえてきた。
「……キュルル……」
それは、まるで小動物の鳴き声のようだった。好奇心に駆られ、そっと茂みに近づいてみると、そこにいたのは体長三〇センチほどの小さな動物だった。背中に奇妙な模様のある、見たことのない種類のネズミだ。つぶらな瞳でこちらを見つめ、怯えたように身を縮めていた。
スーもランも「可愛い」と言う。サラは、生きているものに善も悪もないと思った。食えるか食えないか——ただそれだけだ。それは食料であるよりも、どれだけ利用できるかだ。そうしてその小動物を見つめると、ネズミはさらに身を縮めた。
サラは、こんな動物に関わっている時間はないと悟った。ランはそんなサラに反発して、鬼滅の善逸の水筒を置いていった。中は空だけど、お守り代わりのつもりだった。サラは何か言おうとしたが、結局言葉を飲み込んだ。今は、高倉先生——いや、高倉中尉殿のもとへ井戸水を届けなければならないのだ。
そんなことを考えていると、突然、視界が開けた。
目の前に現れたのは、小さな泉だった。泉の周りには苔むした石が積み上げられ、まるで人工的に作られた井戸のようにも見える。
サラは無言でうなずき、水筒を手に取ると、泉の水を汲み始めた。中には死体が浮いていた。その死体を脇にやると、サラは気にせず水を飲み始めた。ランは驚いていた。——まだまだ見習いだ! 生死を見ていないのだ。そんな余裕なんて、彼女らにはなかった。
不安と期待が入り混じった感情が、胸の中に渦巻いていた。サラの服は血に染まっていた。夕陽が赤く染めたのかもしれない。
その時、茂みから這い出してきたのはハブじゃなくネズミ——いや、人間の青い目の金髪男だった。
「怪我しているの?」そんな男に、うむも言わずサラが切りかかる。いつからそんなナイフを握っているんだと、誰もが思いながらも、サラごときの動きはスローモーションすぎて、ランは難なくナイフを落とした。
そして金髪男の目が、うるるとランを見つめていた。それに——善逸の水筒。どうして彼が?
他校との恋愛は禁止だけど、そんなことは構いはしない。サラだって男性教師の愛人だ。天使のふりをしているけど、「血に汚れた天使」なのだ。
ランは、あのアメリカ兵だって自分の言いなりにできると思っていた。サラはお姫様で、高倉を王子様のように言うけど、男の助平心なんて同じだとランは考えていた。
女の魅力は神話時代から武器になる。この捕虜は使えるかもしれない——そう思った。怪我のふりをしているだけなのかもしれない。彼は「善逸」と呼ばれた捕虜になる。
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三人称のランの視点からサラの視点へ。会話は禁止なのだがストーリー上入れた。ChatGPTによる添削。