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第5章1話トラッシュタウン初稿

こんな感じだった。これでよかったかも。いつもどれだけ迷って捻って迷走してるのか分かると思う。一人で推敲することはやはり無理を感じることがある。




【トラッシュタウン】

 玄咲たちの見上げる先。
 入街者を出迎えるアーチ状の看板にはそう描かれていた。
 乾いた風が砂塵を運ぶ。
 乾いた大地に木造の建築が居並んでいる。
 頭上には夕日。黄昏れ時に暮れなずむ人々の表情にはどこか影がある。しかし、町を縦断するラグナロク学園の関係者の姿を目にとめると、その表情は明るいだ。

「おお、ラグナロク学園だ……!」
「ラグナロク学園の生徒が来てくれたぞ……! これで安心だ……!」

 歓待の声が溢れる。その中をラグナロク学園生が行く。その表情は後方に流れていくにつれて戸惑いに溢れたものになる。3年から始まり1年で終わる列の最後方、1年G組の列の一角でシャルナが玄咲の袖を引く。

「前の方、凄いね。……ここが」
「ああ、ここが」

 玄咲は頷き、シャルナと共に来町者を出迎えるアーチ――その横は果てなく木造のバリケードが広がっている――を潜った。

「トラッシュタウン。ドロミテ大樹海の魔物を食いとどめる防衛拠点。カードトレインの停車地。そして俺たちがただ通り過ぎるだけの街だ」



 

 カードトレインはトラッシュタウンに隣接する駅に停まった。
 
 その後はトラッシュタウンを中継して徒歩でドロミテ大樹海に向かうことになる。

 トラッシュタウンの文字が彫り込まれたアーチ状の看板を学園長が率いる生徒は3年A組を先頭とし1年G組を最高部とするラグナロク学園の大縦列が潜っていく。玄咲とシャルナもその中の一部となって潜っていく。

 ラグナロク学園の外。初めて訪れるプレイアズ王国中央街以外の街は、乾いた大地に木造建築が居並ぶ街だった。プレイアズ王国中央街を一応中世ヨーロッパ風の街並みだとすれば、トラッシュタウンは開拓時代を思わせる街並み。玄咲は乾いた風に片目を瞑りポケットに手を突っ込み長い裾を風にたなびかせながら鋭い視線を街に這わせる。目に入る風が痛かったし服が無駄にたなびくし風が目に染みるので自然と細まったのだ。結果、シャルナの瞳孔がややハート型になった。

(トラッシュタウン。西部劇に出てくる街並みをモチーフにした街。らしいな。ドロミテ大樹海の特殊な樹木で作られた燃えづらく丈夫な木造建築で街のあらゆる施設が作られている。この街において木材はすぐに替えが利く上様々な性質を有し丈夫で便利な万能素材。また、荒野の孤島のため他の資材の調達は困難。それ故のウエスタンな街並み。決して雰囲気作りではない。やはりCMAの設定は完璧――お、あの施設は)

「フッ、ラグナロク学園か。俺たちの仕事は終わったようだな……」

「概ね同意だけどあんた仕事してないじゃないか。いい加減紐やめて働きなよ」

(酒場【バーバラ】。イケメン好きの女主人バーバラが仕切る店。大空ライト君が話しかけると優しく対応してくれる。この街の色々な情報が集まる店。そして――)

「フッ、ラグナロク学園か。ケツの青いガキの群れが。泣いて帰ってこないといいんだが……」
「マルコム、お前昨日やっとラグナロク学園がくるって酒場で泣いてたじゃねぇか……」

(冒険者ギルド【イーストウッド】。昔はガトリング型のADで馴らした凄腕の魔符士ロットンがギルド長を務める。今は大砲型のADを使っている。大艦巨砲主義に目覚めた訳ではない。魔力が衰えたためガトリング型のADで纏まった火力を出すのが難しくなったから欠点を補うため取り回しは悪いが一撃の火力が出る大砲型のADに切り替えたんだ。魔符士の最大の敵である老化と上手く付き合っている。マルコムは出来の悪い弟。野良魔符士と大差ない戦闘力で特に愛してはいない。そして――)

「悪いな。また俺の方が手札を捨てるのが早かった。もう少し、遊ばせてくれても良かったのに……」
「う、ううぅ! 親友から借りた金ばかりか大事な肩身のペンダントまで……! 糞! ラグナロク学園がもう少し早く来てくれていれば……! こんなことにはならなかったのに……!」
「本当ここ最近の戦いは酷かったからな……ギャンブルでもしないとやってられなかった。仕方ねぇよ……」

(カジノ【サティスファクション・ヘイヴン】……悲しい、会話だな。これからあのおっさんはどうやって生きていくんだろう。むっ! あれは……!)

「ふぅん。イケメンばっかじゃん。……ラグナロク学園生なら……別室連れて行ってあげてもいいナ……」
「本当、助かったよォ。もしプライベートで来てくれたら、イケメン相手ならウサ夫、サービスしちゃうんだけどナ~(チラッ)」

(……BAR【ラビット・ハウス】のバニーガール。いわゆるガールズBAR。しかし、何故か決して入れない別室がある。何が行われているのか……純粋な好奇心から気に)

「じー……」

(ならないな。欠片も。うん。やれやれ、全く、何が行われているのやら……)

 玄咲はため息を吐いて視線を別の店に移した。興味がない店にそれ以上視線と思考を割く時間は玄咲にはない。時にピュアリズムは相反する欺瞞によって守られる。さらに歩くと、

(む、あれは)

「植物型モンスターや動物型モンスターに効果の高い炎属性カードやドロミテ大樹海で使いやすい土属性カードをメインに取り揃えてるぜ! ラグナロク学園のみなさんも是非寄って――くれそうにないなぁ……」

(カードショップ【イーストウッド】。東方にあるドロミテ大樹海対策のカードをメインに取り揃えていることからつけられた店名。そして隣には)

「遠距離から安全に敵を始末できる銃型ADはハンター稼業にお勧めだ。高頻度で魔物と戦うハンター稼業は安全第一だからな……」

(ADショップ【ガトリング・カウンター】。ガトリングの速度でカウンターが回って欲しいという店主の祈りが込められている。この街で主流の銃型ADを取り揃えている。もちろんガトリングも大砲もある)

「カードショップとADショップって、基本隣に、あるよね」

「隣り合うと客足の相乗効果が起こり客足が倍増する」

「なるほど。それにしても、色んな店があって、見てるだけで面白いね」

「ああ。プレイアズ王国中央街とは全然違うな」

 トラッシュタウンの店はどの店もドロミテ大樹海の傍にある開拓地ならではの土地風の匂うユニークな店ばかりだった。【ニコニコ・ウエスタン】というレストランでは魔物食はもちろんドロミテ大樹海産の野菜料理がたくさんメニューに並んでいた。ドロミテ・チップスの開発店らしく、そこそこ有名なようで人入りもよかった。ドロミテ・チップスも店頭販売していた。列から離れることは厳禁なため購入は出来ないが、見てるだけで楽しかった。一応帰りは購入できる。思えば初めて味わう異国感あふれる独自の文化を楽しみながら歩いていると、列の終点が見えてくる。

「見えてきたね」

「ああ。街の出口だ。本当横切っただけだったな……。でも、この街の窮状は」

 ――糞! ラグナロク学園がもう少し早く来てくれていれば……! こんなことにはならなかったのに……!

「……何となく伝わった」

 街を歩く人々はどこかくたびれていた。それは激戦区の兵士の憔悴の仕方に似ていた。それは時折聞こえてくる会話からも察せられる。そして、ラグナロク学園が来たことに心底ホッとしていた。国内最高の魔符士集団――内部にいては中々実感できないその実態を、外の世界の視点を向けられて2人は肌で実感した。

「……本当にこれから、A級魔物出現地帯の、ドロミテ大樹海で、戦うんだね。なんか、今更実感、湧いてきた」

「……訓練通りやるだけさ。それにシャルはあの会長と組んでる。だから絶対大丈夫だ」

「……うん。確かに、あれ以上、頼りになる人、いないかな。あ、もちろん、玄咲の方が――」

「いや、どう考えても会長の方が頼りになるから無理しなくていいよ」

「うん。ごめん」

「いいさ。本当、会長がシャルが組んでくれて安心した。あの瞬間俺の不安はほぼ消え去ったよ」

「……そだね。今なら、組ませたがってた理由、分かる」

 仰々しい列の終わり。玄咲たちから少し離れた所にいるG組の先頭のクロウが門を潜ろうとしたとき、

「あっ!? クロウさんじゃないですか!」

「むっ、お前は……ラモンか」

 入り口の左右に配置された門番の一人がクロウに駆け寄った。クロウも驚き、応答する。10年前、賞金首、助かった、チンチロ、記録的大負け、そんな言葉が聞こえる。クロウの賞金首狩り時代の知り合いらしい。玄咲の位置からはよく聞こえない。ただ、

「主に気を付けてください」

 その言葉だけは不思議とはっきり聞こえた。








「どうしたの、玄咲?」

「いや……シャル」

 荒野の上、背後に遠くなったトラッシュタウンををふと振り返った玄咲にシャルナが尋ねる。玄咲は真剣な表情でシャルナに応答する。

「いや、途中利いた言葉が頭に残っててな……シャル」

「何?」


「主には気をつけろよ」


 深緑の海はもう間近に迫っている。





「――なんだァ? こいつ」

 ――深緑の闇に声が響く。声は嘲弄する。眼下に倒れた深淵の如き濃緑を鱗に宿した巨大な緑龍の死体を。全身に傷を刻まれたその死体の無様さを。

 ギヒ、と。

 極大な悪意を煮詰めた声を。

 人語を解する知能を口から放ちながら。

「ギャーッハッハッハハッハ! 弱っちぃなア! 偉そうな声してる癖によォ! 俺はお前みてぇな偉ぶった奴を嬲り殺すのが何より大好きなんだよなァ! ギ、ギヒヒヒヒヒヒ……ギヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ! 俺より弱いくせによォ!」

 悪意に満ちた声が森を揺らす。その近くに生物の気配はない。突如現れた圧倒的な異物。その存在を恐れて近づかない。それは緑龍に手を伸ばし、

「さーて、それじゃぁお楽しみの時間だ。俺の大好きな脳みそから」

 開いた口内がまるで巨大な血色の樽が収まっているように見える。それは躊躇なくその口角を折り畳んだ。

「いただきまァす」

 ガブリ。

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