6月22日。1年でもっとも太陽に近く日が長い日、日本の夏至、梅雨の真っ只中。魔法界では太陽の日であり、晴れの特異日でもある。
ラジオから流れる今年も1日晴れの予報にガッツポーズをして、星座盤を手に部屋を出た。夜が待ち遠しい。
茜色の指す渡り廊下を歩いていると、向こうから小さな花束が歩いて来た。彼女は自分を見つけるとパッと顔を明るくして駆け寄ってくる。
「せんぱい! こんにちは!」
1年生のひなちゃん、ちいちゃい女の子である。彼女は身体中に花を飾られていた。あちこち無造作に挿してあり、自分でやった訳ではなさそうである。気になったので、目線に合わせて屈んで尋ねてみる。
「こんにちは、可愛いことになってるね。どうしたのそれ」
「今日授業で花を育てる魔法を習ったんです。そのお花をクラスのお友達がお誕生日のお祝いにくれたんです」
んふ。と幸せそうに頬を緩ませる。見せたくて仕方ないのだろう。くるくる回って背中の花まで見せてくれた。
「そっかお誕生日だったんだ。誰に貰ったの」
「えと、このピンクのお花はみのりくんがくれました、なかよしさん」
「ライラックだね、|仏国《ラフェル》では友情のシンボルになるお花だよ。葉っぱがハートのなかよしのお花」
「わっ、素敵なお花貰っちゃった」
「良かったね。こっちのスイレンも綺麗」
「それはね、なるかみさま。祝福してくださいました」
「これも友達に贈るのにピッタリなお花だ」
「えっそうなの! えへ、うれしいな」
こっちは誰々ちゃんに、このお花は誰々くんにと、自分の知ってる名前と知らない名前が飛び交う。先輩ぶって優しく相槌を打ってやると、幸せをお裾分けするように笑うので、苦じゃなかった。
「それで、このアサガオは?」
「はるくん! 直接ね、ローブに咲かせてくれたんです。アサガオの羽織になって、かわいくしてもらいました。アサガオはどんなお花なんですか」
周りの花々の隙間を埋めるように蔦が絡んで、あちこちに白や濃いピンクのアサガオが咲いている。
「花言葉は色々あるけど、「固い絆」が似合うかな。これもお友達に贈る花だ」
「やったぁ! あのね、はるくん、いちばんなかよしなんです」
「そっか、そっか。よかったねぇ」
ひだまりの中で笑う花束に、自分も1輪花を添えた。
「じゃあ優しい先輩からも。ひなちゃん誕生日おめでとう」
「わぁーっ、かわいいお花! うれし。せんぱい、ありがとう存じます!」
ぎゅ、と自分が贈った花を胸に抱いて、バースデーガールは華やいだ。