俺は専門学校を卒業し、資格を取得後、すぐに水泳トレーナー協会への登録を済ませていた。
しかし、トレーナー界は、高い実績となによりも人脈が必要な業界である。
だから登録をしたからといって、一介のスポーツジムの職員でしかない俺へ、仕事を紹介してくれることはなかった。
すでに有名選手となった樹の専属トレーナーになるなど、今のままでは夢のまた夢だった。
そこで俺は専門学校時代取得を諦めた"アスレチックトレーナー"の資格を取得するべく、今の職場を辞めて再度学校へ通うこととした。
でも、学校へ入学したのは資格取得よりも、人脈を作ることに重きをおいた。
今度ゆく学校には、水泳トレーナー協会に所属している講師が在籍しているからだ。
正直、金も無いし、跡も無い。
でも、俺にはきつい専門学校時代を潜り抜けてきた成功体験と、フィットネスジムで培った現場経験がある。
だから俺は必死に喰らいついた。脇目も降らず、たたひたすらに。
すると、俺の頑張りが奏功したのか、目標としていた講師が俺に目を止めてくれた。
そして食事に誘ってくれたタイミングで俺は、包み隠さず「競泳の木村 樹は自分の大切な人で、心身ともに支えてやりたくて、今の仕事を選んだ」と語った。
すると樹とも関係の深かった講師は、樹が金メダル獲得後、伸び悩んでいることを教えてくれた。
そして俺のような存在が、今の樹には必要なのだと。
だが、そうだからといって、すぐに俺を樹の専属にするわけには行かないとの現実も語ってくれる。
今の俺では一流アスリートに着けるには実績があまりに足りなさな過ぎるとのことなのだ。
そこで、講師は今自分が契約している"実業団"へのトレーナーとしての参加を打診し、実績を作るよう促してくる。
また専門学校時代のように二足の草鞋を突きつけられた。
でも、このチャンスは逃せないと、俺は二つ返事で、講師の提案を受け入れた。
そしてそこで、俺は驚きの再会を果たす。
「あれー!? もしかして、王子の王子の香月くん!?」
「西谷先輩!?」
「んふふ〜今の、私は東山 恵那子よん♩」
なんと講師が紹介してくれた実業団で、学生時代何かと樹の世話をしていた、西谷 恵那子先輩……もとい、東山 恵那子さんがコーチとして所属していたのだ。
これが幸いだった。
旧知の仲とのこともあり、恵那子コーチは講師とタッグを組んで、俺の実績作りに協力してくれたのだ。
こうして俺は実際の現場で、様々な経験を積んでゆく。
そして同時に学校でも卒業と資格取得を目指して頑張った。
正直なところ、忙しさは専門学校時代の比ではなかった。
金だってほとんどなかった。
だけど俺は今まで以上の充実感を抱き、日々を過ごしていた。
もう少しで目標に手が届く。
ーーそうしてこの3年間も、あっという間に過ぎ去って行き、そして遂に……!