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★13/16 陰キャンプスピンオフNO3 『木村 樹ルート』

 樹と再び時を重ねる……俺はそう決意をした。

 そしてその目標を叶えるべく、俺は早速"水泳トレーナー"になるための方法を調べ始めた。

 水泳トレーナーとはスポーツトレーナの一つであり、水泳選手のコンデションを整え、パフォーマンスを最大限引き出すためにサポートをする仕事のことだ。

 でも水泳トレーナーになるためにはまず国が認めた医療免許もしくはアスレチックトレーナーという民間の資格のいずれかの取得が必須であった。
 しかも多くのアスレチックトレーナーは、理学療法士や柔道整復師といった医療免許を保有している人も多いという。

 つまり二つの資格を保有することが、その世界で生き抜いてゆくのに必要であった。

 俺自身も、人の体を扱う仕事なのだから、医療関係の知識は必須だと感じていた。
だから俺は早い段階で、二つの資格を取得することを決断する。

 ただ……受験資格の条件として、成人であることが必須であり、あと数年待たねばならなかった。

 でもこれはそれだけ準備時間があるということだ。
同時取得は無謀との声が散見されたが、長い準備期間があればなんとなかると思った俺は、今できること……資格取得へ向けての座学の勉強を開始したのだった。

 不幸中の幸いか、三年になった俺はクラスでまたひとりぼっちとなってしまった。

でも俺はその状況を最大限利用することにした。朝も、昼も、そして夜さえも勉強に費やすことができたのだ。

 だけど俺のやるべきことはもう一つあるーーそれは金を貯めることだ。

 金を貯めて、年に一回でも良いから、樹に会いにゆく。
そのための金が必要だった。

 だから俺はバイトも頑張った。むしろ、三年の記憶は勉強と、バイトと、時々ネットを介して海外にいる樹と話したことぐらいだ。

 それでも構わなかった。

 少しでも早く俺は、また樹のそばに戻って、アイツのことを肉体的にも、精神的にも支えてやりたい、そう思って。

ーーでも、まだ精神的に未熟な俺は、この状況に何度も心が折れかけた……。

 これまで人の体やスポーツなどにも縁がなかった俺にとっては、初めてする勉強内容ばかりで、とても困惑してしまって。

 樹とネットを介して会話ができると言っても、時差があるため、あまり長い時間は会話できないことが寂しくて。

 時々2人で画面越しにエッチなことをして寂しさを誤魔化していたが、やはり物足りなくて、悶々とした日々を送ってしまっていて。

ーーさらにそんなある日、花守さんが知らない男子生徒と仲良さげに腕を組んで歩いているところをみかけてしまったのだ。
弱っていた当時の俺は、あろうことか、もし今でも花守さんと付き合っていたら、どんな風に過ごしていたんだろうかと考えてしまった。

 でも、こうして心が折れかけるたびの、俺は別れの前に樹が口にした言葉を思い出すようにしていた。


『葵は僕を選んだこと、後悔してない……?』


 きっとあれは樹なりの、俺への最後の問いかけだったと思う。
ひょっとすると、別れを切り出されても良いと思っていたのかもしれない。

 だけど俺はその問いに"後悔していない"と、本心から答えた。

 これが俺の本心なのだから、今思う辛さや、寂しさは、まやかしだ。
未熟な俺が弱音を吐いているだけだ。

 なら負けない。そんな弱音など跳ね除けて、実力をつけて、一刻も早く樹の元へゆく。

そうやって挫折と復活を繰り返しつつ、俺の三年の生活はあっという間に終わりを告げた。

ーーそしてようやく落ち着いた時間と、まとまった金ができた俺は、単身渡米する。

 初めてのパスポート取得に戸惑ったり、入国審査で全然英語が通じず困ったり……そんなこんなでようやく、俺は一年ぶりに樹との再会を果たす。

「葵っ! 待ってたよ! 来てくれて嬉しいっ!」

 俺たちは周りに多数の人目があるにも関わらず、空港のロビーで強い抱擁を交わす。
そして樹の運転する車に乗って、様々なところを案内してもらった。

 樹と久々に会えて、すごく嬉しかった。
だけど、嬉しさの陰で、俺は樹との"歴然とした差"を思い知らされた。

 樹は行く先々で、流暢な英語を口にしていた。俺はほとんど英語を聞き取ることも、喋ることもできず、全て樹任せっきりとなってしまっていた。
 水泳の方も調子が非常に良いそうで、近く大きな国際大会へメインの選手として出場するそうだ。

 対して俺は慣れない勉強にイライラしたり、元カノとの関係を懐かしんだり、画面越しでも精一杯愛してくれる樹に不満を覚えたり……本当に、自分が情けなく、だらしがない奴だと強く感じた。今のままの俺では、樹を支えてやることなんてできやしない。

 俺はこの旅を通じて、より一層努力をすべきだと痛感したのだった。

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