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不純(?)文学 〜 文学を科学する (1)

【ある対話】


「先生、お久しぶりです〜〜♪♪♪」

「相変わらず元気そうだね! 文学部の居心地はどうかね?」

「毎週毎週レポート提出の嵐で、思ってたほどバイトの時間が確保できなくて困ったちゃんチャン。今週のテーマは『純文学とは何か』なんですぅ〜。でもね、人によって純文学のイメージがバラバラみたいで、落とし所がわからなくなって、正直『頭がウニ』状態ですよ!」

「なるほど。『ポエムな人々』の仲間になるのも大変そうだねぇ。そういう『あたりまえすぎて難しい』問題を考えるときは、間接証明の考え方を応用してみたらどうだろう。背理法とか対偶法とか覚えているかい?」

「昔、銀河のどこかで聞いたことがあるような・・・」

「それほど悩むことでもないよ。『純文学』でない、すなわち『不純文学』であるための十分条件を考えてみたら、少しは頭の整理ができるかもしれないね」

「不純・・・なんだか淫靡で怪しげな響きですね・・・」

「例えば、不純な動機で書かれた作品は『不純文学』だろうか?」

「自己顕示欲やお金目当ての創作活動なんて、あまりピュアな感じがしませんね」

「なるほどね。そういう考え方だと、『純文学』の人は無名で貧乏な人生を強いられやしないかなぁ。漱石先生はじめ、新聞・雑誌の売上げアップのために連載小説を書いた人たちの作品も、『不純文学』扱いするのかい?」

「そう言われると、執筆の動機はそれほど本質的な問題ではないような気もしてきますね。人間、霞を食って生きていける訳でもないですし・・・」

「それじゃあ、執筆の手段はどうだろう。最近、生成AIの性能が飛躍的に良くなって、創作界隈でも話題になっているらしいよ」

「その話は私も気になってしようがないんです。でも、私の推しの作家さんも、全部じゃないけどAIを道具として使っているそうですし・・・。万年筆で書こうが、ワープロで書こうが、スマホで書こうが、名作は名作ですよね。そういう意味では、道具としてAIを使うのもアリかもしれません」

「ということは、動機も手段も当面は判定基準から除外されそうだね。作品を『テクスト』だけで評価しようとするのは、一つの立場ではありうるね」

「因みに、生成AIは人間と同等以上の文学作品を書けるんでしょうか? 先生はどう思いますか?」

「著作権等の問題はクリアする必要があるけれど、源氏物語からシェイクスピアまで、古今東西の名作や文学論の類を『全部』学習させることによって、原理的には「いいとこ取り」した『名作モドキ』を出力させることが将来的に可能かもしれないね」

「どうして『モドキ』なんですか? いいとこ取りしてるんだから『最高傑作』じゃないんですか?」

「いい質問だね。キーワードは『同時代性』と『記述可能性』だよ」

「だんだんと怪しげな議論の香りがしてきますね。私がモノを知らないと思って、難しげな専門用語で煙に巻こうとしてません?」

「さすが大学生だね。少しは用心深くなったじゃないか! 詐欺の被害に遭わないという点では正しい態度だと思うよ。でも、私が言いたいのは、それほど難しいことじゃないんだ。『同時代性』については、夏目漱石の『こゝろ』が、いつ誰のために書かれたか、ということを考えると分かりやすいかもしれないね。少なくとも、令和の高校生の国語の教材として書かれた訳ではないことは間違いないだろう。普通に考えると、『江戸』の残滓を抱えつつも『明治・大正』という近代化の荒波の中で、『西洋』と向き合った当時の悩める知識人向けに書かれたんじゃないかな」

「なるほど! だから国語の時間に『正しい読み方』を『探究』しても、令和の私たちには『何となく嘘っぽくて』刺さらなかったんですね」

「昭和の元少年にもピンとこなかったよ・・・。そういう意味では、その作品が書かれたコンテクスト(背景・文脈)を無視して、ストーリーや文体を完璧に模倣しても『漱石モドキ』とでもいうべき『よくできたテンプレ小説』しかできないんじゃないかなぁ・・・」

「紫式部が同時代の貴族向けに書いた『源氏物語』は文句なしの傑作だけど、後世に量産された擬古文の『源氏物語モドキ』は、日本文学における『元祖テンプレ小説』なのかもしれませんね!」

「なかなか呑み込みが早いね! で、もう一つのキーワードが『記述可能性』なんだが、あなたは自分自身の存在の何パーセントを『記述(describe)』できると思う?」

「へっ⁉︎ そんなの無理ぽ! いや、失礼。せいぜい数パーセント以下なんじゃないですか」

「普通の感覚だとそんなものだろうね。最近流行りの大規模言語モデル(LLM)なるものは、その名の通り『言語によって(by means of language)』記述されたものからしか『学習』できないんだ。だから、あなたの気持ちや感覚の記述不可能な『非言語的』領域については、理解することも知ることも『原理的に不可能』なのさ。AI小説に『もののあはれ』を感じにくい人が多い主たる理由もこの辺りにありそうだね」

「納得! 納得! 先生、座布団10枚!」

「いやぁ、それほどでもないさ。でもね、『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』ともいうように、名文を模倣して生成された一定のパターンに対して『人間が勝手に意味を見出して感動する』可能性もありそうだとは思わないかい。そういう意味では、『人が書いたか、AIが生成したか』なんてことは本質的な問題ではないように思うね」

「先生の怪しげな議論が『もっともらしく』思えてきましたよ!」

「Thank you! Thank you very much indeed! それじゃ、本日只今より『文学科学』を探究する学会を設立しよう。認知科学の一領域ということで、文部科学省にも申請しておこう。あなたが学会員第一号だね。年会費は免除しよう!英文表記は 'Japan Literatics Association' でどうかな? 私は『名誉会長』ということで!」

「・・・」

(続く)

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