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12 災禍の龍 後編 続き

最後の異世界転生譚 ――Echoes Beyond the Aurora Manuscript――
https://kakuyomu.jp/works/16818622171006782162

(引っ越しの影響でネット断ちしてました。更新遅れてすみません)

97話 お断りだ。
アーミラとオロルは、先代の手記に記された「杖を手放す勇気」という言葉の真意にたどり着く。
オロルは、「杖に宿る宝玉、あるいは“驚異の部屋”ごと龍にぶつけたのではないか」と推理し、これが災禍の龍を倒す奥義ではないかと考える。アーミラはその危険を理解しつつも、最後の手段として覚悟を決める。
その後三柱の継承者が集い、戦況を見守る中、アーミラはウツロに過去の出来事、そして「奥義」を問いただす。しかしウツロは拒絶する。
「お断りだ」――その一言にウツロの中にある深い傷と恐れが滲む。アーミラはなおも食い下がるが、ウツロは彼女の安全を優先し、情報を渡すことを拒む。
そして不穏な音が空気を裂く。「腹が鳴ったのか?」という不気味な仮説が浮上し、物語は新たな転機へと進み出す。


「継承」と「喪失」、「理解」と「拒絶」という対立構造。前線の進退と彼女たちの命も含め、状況はかなり切羽詰まったものです。精神的にも余裕はなく、仲間同士で言い争うなかで龍が呑気に腹を鳴らす不気味さ。
手記にしろウツロにしろ、声にならなかった言葉を空白として描いています。


98話 褒められたやり方ではないけど
災禍の龍が発する飢餓の光輪による攻撃により、ラーンマクの地は壊滅的打撃を受ける。アーミラは間一髪でウツロに助けられるが、地表は抉れ、星の漸移帯すら露出する深淵が開いていた。地獄のような惨状を前に、オロルは撤退を決断し、一行はスペルアベルへ向かう。
その撤退の途上、アーミラはついに怒りをぶつけ、ウツロに奥義の存在を問いただす。拒絶されながらも、手記から推論した「天球儀の広域爆発」の術式が先代の奥義だったのではないかと突きつける。そして「もうあなたの言葉は届きません」と言い捨て、二人の間に決定的な断絶が生じる。
さらに進んだ一行は、かつての討伐隊の仲間たちの遺体を目にする。ガントールは彼らの遺体を圧縮し、魔鉱石として転化させるという行為を提案する。「褒められたやり方ではないけど」と断りつつも、それが戦うために必要な選択であることを理解し、オロルは「わしのために、手を汚してくれ」と真正面から懇願する。

災禍の龍はさらに世界をかじり取り、状況は一層悪化。しかもウツロとアーミラの関係も最悪になります。
駄目押しというわけでもないですが、ガントールとオロルまでもが倫理を犯す判断をしました。「鼻を捻るように脂を拭い、搾るように言った」→オロルは悩んで苦しんで、それでも言うしかなかった。ガントールの精神を守るため罪を背負う誠実さがあって、好きなシーンです。

ちなみに『漸移帯』はマントルの言い換えです。作風的にカタカナを避けたかったので珍しい言葉を使用しました。


99話 世界。黄昏。厄災――
討伐隊の遺体を魔鉱石に転化する火球儀式が静かに終わり、三人の継承者たちはその結晶を手にして感謝の祈りを捧げる。赦しと覚悟が交錯する沈黙の中、災禍の龍は微動だにせず、腹に収めた世界を静かに消化していた。
ここが最後の好機と見た一行は決戦に臨む。アーミラは奥義を構築すべく三節三連の詠唱を開始するが、それは一発勝負の未完成な術式。彼女が紡ぐ詩のような呪文の間、ガントールとオロルは龍の注意を引きつけるべく攻撃を仕掛ける。
だが、災禍の龍はついに明確な敵意を示し、光輪による反撃を発動。閃光がすべてを消し去り、アーミラは突風に吹き飛ばされて気絶する。意識を取り戻して辺りを見渡すが、ガントールとオロルの姿は消えていた。
希望も詠唱も失われ、アーミラは嗚咽を漏らして泣き崩れる。

このあたりの展開は読んでいてしっかりストレスを与える展開です。倫理を犯してまで魔鉱石を調達し、身を削る戦いです。それでも…勝利は遠い。

アーミラの三節三連詠唱をフルで載せます。長いです。

  世界。
  黄昏。
  厄災。
(ここまでは詠唱を行うという「宣言」であり、次からが詠唱はじめ。「世界」「黄昏」「厄災」についての物語を詠唱している)


〈「世界」の節〉
  爪、突、振。
  神の定めた測り言、
  得物と獲物、鋒と牙の隔りのこと。

  天球儀。
  三女神引力の妹にして、時の姉。
  星を象る此杖は、
  須《すべから》く万物の距離を掌る。

  偃月。
  命の気配がなくなった。
  命の気配がなくなった。
  それは静謐。
  静謐とは音の有無ではない。
  距離か、深さか、虚無のこと。

〈「黄昏」の節〉
  我が名はアーミラ・ラルトカンテ・アウロラ。
  女神の次女の姓を授かる継承者也。
  宿痾の首と無辜の躰を持つ娘也。

  神よ、謙虚なる娘の声に耳を傾けよ。
  その右耳に捧ぐ娘の声に。

  涙よ。汝の辿り着く恩寵よ。
  血潮よ。汝の駆け巡る裂帛よ。
  淋漓よ。汝の流れ滴る荒野よ。
  我から溢れ注がれる全てはこの星を満たし、
  雲となり火山となり海となるだろう。
  我は杖を介し、星と一つに繋がっている。

〈「厄災」の節〉
  叢に蛇ありて。
  慟哭に沈く憎悪の風は、
  呱々の声もなく生まれ落ちた。
  救われぬ御魂は澱を固めた醜貌で、
  禍事のいっさいを引き連れ土地を蚕食する。

  弓立。
  磨かれた鏃は熱が冷めぬまま悪に突き刺さる。
  肌を煇し、心臓を去り、
  不浄の霊素は天の裁きに清められ、躰は星に還り給う。
  延々と続く流転に終わりを告げる、滅却の光となりなむ。

  星砕。
  勇立つはうからやからの栄光のために。
  携るは現世に落つ智慧の果実。
  内に秘めたる蜜の全てを支払い、
  災禍退く夜明けを齎せ。
  天球儀よ、我が命令に従い給え。


100話 ああみら
前話で詠唱を失敗したアーミラは、絶望と混乱の中で再び詠唱を始める。泣き崩れ、泥にまみれ、魂を震わせながら紡ぐ言葉はすでに祈りというより絶叫に近い命の焚き火だった。
災禍の龍が再び覚醒するが、そこへウツロが現れる。剣を掲げアーミラを守る彼の姿は灼熱により変質し、人と異形の狭間のような存在となっていた。
詠唱の中、柱時計から放たれた閃光により龍の光輪が破壊され、討伐の好機が到来。アーミラは奥義の最終詠唱へ突入するが、その瞬間、彼女はウツロによって妨害される。
神器・天球儀は破壊され、アーミラの首を刃が貫く。視界が回転し、意識が途絶える。
ウツロがなぜ裏切ったのかは、誰にもわからない。

『100話』です。ここを節目に物語が大きく変化しました。
静かに旅を同道し、継承者を支えてきたウツロがアーミラの首を切り、土壇場で裏切ります。
予想外の展開にしたかったので、きっと戸惑った方もいると思います。

12章「災禍の龍 後編」の完結として、最悪の結末によって完璧に物語を閉じる。
これまで積み上げた魔術設定、神器、登場人物たちの想い、それらすべてが一瞬にして崩壊する。
しかしその崩壊が「終わり」であるはずがないことは、読者は分かっているはずです。
なぜなら、ここでアーミラが死ぬなら「物語が始まった意味」すら失われてしまうから。

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