最後の異世界転生譚 ――Echoes Beyond the Aurora Manuscript――
https://kakuyomu.jp/works/1681862217100678216278話 手のかかる愚姉ですこと
雨の降る中、偽物のガントールとの戦闘が開始される。
異様な剣閃と膂力でセルレイを負傷させた敵に対し、アーミラは光弾による術撃を矢のように繰り出し致命傷を負わせる。心臓を撃ち抜かれたトガは面皮と神器を残しながら肉体を消し去り逃走。
アーミラたちは邸内に残る人々を守るべく駆け出した。
偽ガントールの正体が判明しているので戦闘と逃走劇。
スペルアベル編の伏線回収に進んでいますね。なんというか『お約束』みたいな展開なのである意味落ち着いて読めます。この先はもう勝ち確って感じです。重要なのは勝敗ではなく、メッセージ性の着地が気になるところ。
79話 おぇあ、ずぅっと見張っえた
ナルの悲鳴を聞いて駆けつけたセルレイとアーミラは、かつての部下殺しの場面が再演されているのを目撃する。
床には倒れたニールセン、斧槍を構えたイクス。両者の言い分が交錯する中、セルレイは過去の過ちを繰り返すまいと理性を保ち、アーミラの観察によってニールセンが偽者であると確定される。追い詰められたトガはナルを襲うが――
その一方、ウツロの内部ではエンサが精神侵入を果たし、核へ着々と接近中であった。
「おぇあ、ずぅっと見張っえた」というタイトルそのものが胸に刺さるクセ強な表現。イクスの秘めていたプライドがギラリと光る回。誰の理解も得られず孤独に戦い続けていたイクスが報われる瞬間。渋い。かっこいい。
同時に、ウツロの謎にも接近していて新たなハラハラ展開も挟んでいます。
80話 これは食えないな
精神世界の深層に潜り込んだエンサは、ウツロの本質に近づく過程で『少女』と対面する。当初は無警戒な少女の姿に油断し、石化術を使って遊ぼうとするエンサだったが、次の瞬間、逆に圧倒的な力で拘束・拷問・そして捕食される。
今回はわかりやすくスカッとするバトル(無双?)シーンでした。エンサというキャラはすごくシンプルに悪役に徹していて、ストレスを与えます。そして圧倒的な少女の存在によって強者からの転落、ストレスの解放。そして新たな謎もばら撒き退場。
話の最後でニールセンが言う「顔を奪われても、名は奪われなかった」も、スペルアベル編での重要なメッセージです。顔、誇り、信頼を失っても、それでも奪うことのできないアイデンティティです。ボロボロにやられても、名は奪われなかった。それこそが人のプライドであり、小さな勝利です。
81話 正念場
アーミラは瀕死と蘇生を繰り返しながら死線をさまよっていた。己の腹を食い荒らすトガに侵されながら、詠唱も神器も使えない中でウツロから学んだ指筆を活かして初歩の浮遊魔法を発動。塩甕を割って体内のトガを撃退する。
……こういう危機的状況を打開する鍵がさりげない伏線回収で果たされるのって好きなんですよ。塩ですよ塩。アーミラがお使いで買いに行った塩甕がまさかここに繋がります。あれだけ凶悪なトガの弱点が塩。蛭や蛞蝓という表現を挟んでいたので、説得力も損なっていません。これまでのウツロとのやり取りで用いてきた指筆や、最初に出てきた浮遊の術も劇的に繋がります。
単なる奇跡やご都合展開ではないロジック。アーミラの経験と学びから手に入れた勝機でした。
82話 持っていけ
ダラクの最期の足掻きによりアーミラたちは再び死闘に突入するも、天球儀の力で逆転。最終的にイクスがダラクを討ち果たす。
焼け焦げた邸に残されたのは勝利の余韻と、数々の喪失。イクスは素顔を晒し、過去の名誉と恥辱を振り返ったうえで、ウツロに自らの象徴『斧槍』を託す。
決着回。
イクスの勝鬨と素顔の公開で、感動的なドラマの着地を目指しました。
スペルアベル編のエピソードは矜持《プライド》の物語です。復讐に人生を捧げてきたイクスは、ここでようやく報われます。
同胞の無念を忘れないため多くのものを犠牲に生きてきた彼のプライド。
態度にこそ示さないけれど、信じるものを貫くナルの秘めたプライド。
凍り付いていたそれぞれの人生がダラクとの戦闘を経て氷解する。
イクスは斧槍《ハルバード》の使い手であり、活躍を評価されて勇名を得た過去があると明かされます。章題の『勇名の矜持』の意味もこれで回収。
誇り高い名前(ニールセンの場面で提示した最後のアイデンティティ)すら捨てて、イクスは復習に挑んでいました。友の無念を晴らすために人生のすべてを捧げても構わないという態度。プライドを捨てて恥に塗れて生きるイクスの真の気高さが、今回描きたかったものです。
スペルアベル編を改めて振り返ると、イクスは最初からずっとカッコいい。