『CRUMBLING SKY』
https://kakuyomu.jp/works/16818622175236685267この話が一番湿度高いですね。
肉体的誘惑と理性の対比
貝木との一夜。尾鳥の葛藤を象徴的に描いた場面になります。
ラブホテルにいるという状況。避妊具の描写。性というものに対する緊張感があります。
未成年の少女を保護している彼が、どれくらい健全な覚悟で望んでいるのかは明確にしたかったので、この展開は必要でした(あわよくば小夜と関係持とうなんて考えていたら、がっかりですし)。
小夜に対してこんな展開を描くのは作者的に厳しかったので、貝木が頑張ってくれました。
しかし尾鳥は、単なる倫理的ブレーキではなく、瀬川の気配を感じ取ることで断っています。これは彼が、欲望に支配された行動の危険性――命を奪われる代償に本能的に気付いていることを示しています。
『理性じゃない部分も硬いみたいだけど』という貝木の軽口は、彼女の未練がましさの残る性的な緊張と人間味が出ています。ユーモアのある夜の駆け引きっていいですよね。
とにかく、尾鳥が守るべき何か(真っ当な大人として小夜を救う)はここで選択がなされました。
『アイちゃん』という過去
小夜の社会的な傷が強く浮き彫りになる場面です。
路地裏で偶然出会う過去の『客』は、決して敵対的ではなく常識的な男であり、逆にそれがリアルさになっています。小夜は否定も受け入れもせず、曖昧に応答する。アイちゃんとして生きなければならなかった夜が、確かに存在していた。そして何も失っていないと思っていたのに、大事なものを失っていると気付いた場面になります。
尾鳥の、駅前では離れてほしいと思ってしまう心理描写は、小夜の過去を許したい一方で、完全に受け入れられていない矛盾した感情を表しています。非常に人間的で、彼がヒーローではない証拠でもあります。
部屋での場面。小夜が泣き崩れる姿は、この話の感情のピークです。
『助けてもらえるような人間じゃない』『どうでもよかった』という言葉は、自己の再定義が行われています。
『どうでもよくなくなった』という告白が涙を呼び、過去と向き合える心の変化が起きています。
覚悟が決まった尾鳥の『俺が取り返して見せる』は、強い献身の言葉です。
ここでの対話は、人は他者によって変われるし、他者の言葉によって過去を超えられる可能性がある、という物語の救済主題を明確にしています。過去に囚われている瀬川とは異なる方向性です。
ここから先、『都市の幽霊』『機械仕掛けの幻想』『告白/酷薄』の三つの物語は複雑に絡み合いながら結末へ向かい進みます。