山々が日本のものと同じ様に赤や黄色に染まる10月のルクスタント王国。
こちらでもまた秋の味覚なのかよく食卓にキノコのようなものが並ぶようになった。
見た目も大して地球のそれと変わらず、米さえあれば美味しい炊き込みご飯ができるのになぁと妄想をずっと働かせていた。
学園の図書館には多数の蔵書があり、その中には食物に関するものもあったので、もしかしたら米のようなものがあるかもしれないと思ったが、残念ながらそんなに都合の良いことはなかった。
だがこちらは都合の良いことに、俺は能力で米を呼び出すことだって可能だ。
なので思い立ったが吉日ということで、今日は比叡の主計兵を呼んで炊き込みご飯を作ろうと思う。
「ルフレイ様、本当にお料理なさるつもりですか?」
「あぁ。何か問題があるならばもちろんやらないけれど?」
「問題は別にないのですが……その、皇帝陛下が直々に料理をなさるなど聞いたことがありませんので」
「少し料理がしたくなったんだよ。できたら一緒に食べよう」
こう言うと料理長はもはや反対することはなく、すんなりと厨房を貸してくれた。
俺は主計兵たちとともに早速厨房へと入り、調理の準備を始める。
するとその時厨房の扉が開き、先程までいた料理長が扉から顔を出した。
「言い忘れていましたが、置いてある食材はどれもどれだけでも使ってもらって構いません」
「ありがとう。助かるよ」
料理長は一礼だけすると、扉を締めて出ていった。
俺は純白のエプロンと白い三角巾を身に着け準備を整える。
そして比叡の主計兵たちが自分たちの持ち込んだ調理器具を用意している間、俺は食材の置かれている棚に手をかけ、扉をこちら側に引いた。
「どれどれ……人参のようなものに最近良く出てくるきのこ類、大根のようなものやこれは……よくわからないフルーツだな」
俺はかなり奥行きのある倉庫の中をくまなく探し回る。
実はこの倉庫は中に置かれている氷のお陰でひんやりとした空間となっていた。
また流水も絶え間なく流れているので、快適そのものであった。
「おや、これはかぼちゃじゃないか?」
俺は倉庫の奥の方から、まんまると大きく育ったかぼちゃのようなものを見つけた。
俺は両手を使ってなんとかそれを外に出すことに成功した。
取り出したそれはオレンジの皮、クルンと巻いた茎など、明らかに西洋かぼちゃの様相を呈していた。
「かぼちゃか。そういえばもうそろそろ地球ではハロウィンを祝っている頃合いか」
俺はかぼちゃを手にとって、何かの料理に使えないかと思案する。
かぼちゃでなにか一品……そういえば子供の頃にかぼちゃのプリンを食べた思い出があるな。
あれならば簡単に作れそうだし、喜ばれるだろう。
「司令、かぼちゃなんて取り出してどうしたんですか?」
「いや、そろそろハロウィンだからこのかぼちゃでプリンでも作ろうかと思って」
「はろうぃん……? なんですかそれは?」
「そういえば戦前にハロウィンの文化は日本に浸透していなかったね。ハロウィンはその……なんだっけ? まぁなにかのお祝いだよ」
俺はそう言ってかぼちゃをまな板の上に置いた。
一緒にナイフも手に取り、いざかぼちゃの解体を始めんとする。
まずは手始めにかぼちゃの底にナイフの刃を当て、丸くくり抜く。
次にスプーンに持ち替えて中身をこそげ取り、中身はプリンに使うように別のバットに置いておく。
中身をくり抜いた後は底についた種とワタを外しておき、後でろうそくを置けるようにしておく。
中身がなくなってかぼちゃの中が空洞になったら、今度はいよいよお楽しみの顔を整形する時間だ。
一発で綺麗にくり抜ける自信はないので、まずはナイフで少しだけ傷をつけて外形を描く。
いい感じに下書きができたらいよいよ本番だ。
ミスしないように慎重にナイフをかぼちゃに入れ、引いた下書きどおりにくり抜くと……
「できたぞ! ジャック・オ・ランタンだ!」
幸いいい感じにくり抜くことができ、絵で見るようなジャック・オ・ランタンが完成した。
後はこの中にろうそくを入れれば完成だ。
……だがその前に、先にプリンの準備をしようか。
「司令、それがはろうぃんですか?」
「いや、ハロウィンは行事名でこれはジャック・オ・ランタンだよ。中にろうそくを入れてランタンにするんだ」
「なるほど。なんだか愛嬌のある顔でなかなか可愛いですね……そうだ、少しこちらに来ていただけますか?」
俺は主計兵に手を引かれて他の主計兵たちが料理をしている調理場に連れて行かれた。
そしてそこに近づくにつれて、俺の鼻に得も言われぬいい香りが漂ってくる。
そこにあったのは……
「この匂い……松茸か!」
「そのようです。まぁ正確には松茸ではない別のキノコですが、見た目も味も地球の松茸と違うところがありません。少し焼いてありますのでぜひお食べください」
「ほっほーん、それはどうもどうも。あぁ、よだれが止まらない……」
俺は薪火で焼かれたキノコの載った皿を受け取り、その上にすだちのような柑橘の果汁を少しかけ、味付け用に持ってきた醤油も少し垂らした。
完全に仕上がったキノコを俺は菜箸でつまみ、口へと運んだ。
キノコを口に入れた瞬間、言葉にすることが難しいほどの美味しさの塊が押し寄せてきた。
「なんだこのキノコ!? 松茸より美味いんじゃないか!?」
「でしょう? しかもこのキノコ、大量にあるんですよ」
「まじか! これを入れれば最高の松茸ご飯、いや、究極のキノコご飯ができるな!」
美味しいキノコご飯が食べられることが確定し、主計兵たちのやる気も向上していた。
彼らは何が何でも究極に美味しい食材をさらに活かすために腕を振るう。
俺はこの料理に合わせることができるように、純米酒の日本酒を召喚して用意しておいた。
「そういえば司令、我々の方に少し余裕ができていますので何か手伝いましょうか?」
「じゃあそうだな……生クリームを泡立てるのを手伝ってくれないだろうか?」
「分かりました。手すきの数人、司令の手伝いだ! あつまれ〜!」
「「「「おう!」」」」
その後俺達はなんとかプリンを完成させることに成功し、ひとまず冷やすために冷蔵庫に入れた。
キノコご飯はもう炊く段階に入っており、あと1時間もすれば食べることができそうだ。
一段落ついたので、俺たちはプリン用にさらにくり抜いたかぼちゃで作ったジャック・オ・ランタンを持って調理場を後にした。
◇
食堂にはまだ誰もいないので、俺は主計兵たちと協力してジャック・オ・ランタンをいい感じに配置し、中にはろうそくを仕込んだ。
結果的にジャック・オ・ランタンはいい感じの光源として機能し、食堂内をいつもとは違う感じに彩った。
その出来栄えに満足していると、扉が開いてカールが食堂内にはいってきた。
「あれ、ルフレイさん。何をしているの?」
「やあカールくん。これはハロウィンっていうお祭りの飾り付けだよ」
「ハロウィン……なんだか楽しそうだね」
「あぁ、楽しいとも。……そうだ、ハロウィンだしこれをあげよう」
俺は背中で隠して板チョコレートを取り出し、カールに渡した。
彼は最初それがなにか分からず訝しんでいたが、俺が銀紙を剥がしてみるように言うと彼は大人しくそうした。
すると中からは甘い板チョコレートが姿を表し、同時にカールの目は輝いた。
「これ、もらっていいの!?」
「もちろん! でもグレースにはバレないようにするんだぞ? 見つかったら取り上げられるかもしれないからな」
「分かった! いくら女王でもお姉ちゃんにはあげないよ!」
カールは嬉しそうに笑いながらそう言い、そそくさと食堂を離れた。
嵐のように去っていった彼を俺達は見送った。
さて、少し時間が余っているし、お腹も空いているし……少しお菓子休憩にしようか。
主計兵たちはまだ俺が何も言っていないにも関わらず調理場へと走っていった。
ダッシュで戻っってきた彼らの手には人数分の小皿とフォーク、そしてナイフが握られていた。
なぜ何も言っていないのに分かったのだろうかと不思議に思いつつ、俺はあるものを召喚した。
「おぉ!! やはり間宮羊羹でしたか!」
「そうだと思っていましたよ!?」
「なんで分かったんだ? 何も言っていなかったと思うが?」
「司令の目が間宮羊羹だと言っていました! 羊羹を求める人間の目は見続けていますからね!」
半ばエスパーのようだと思いつつ、俺は間宮羊羹を包んでいる笹を剥がした。
すると中からは紫色の、いかにも美味しそうにテカっている羊羹が姿を表す。
俺がナイフで切り分けている間、主計兵たちの喉はずっとゴクリとなっていた。
「そんな顔をしなくても。ちゃんと人数分あるから」
「分かっております。ですが食べれることが分かっていてもなお喉から手が出てしまいそうなほどほしいのですよ。間宮羊羹が」
このまま焦らしていたら襲いかかられそうだな……と思ったので俺は羊羹を分けるスピードを早めた。
切れたものから順に小皿に乗せていき、主計兵たちが自分たちの前へとせっせと運んでいく。
最初の方に運ばれた者は早くしろと言う顔でこちらを見てきていた。
「さて、なんとか切り終えたな……じゃあ食べようか」
「「「「いただきます!」」」」
「いただきます」の号令と同時に全員が羊羹を切り取り、口に運んだ。
口に入れたものは顔が思わずほころび、天にでも召されたのかというような顔になる。
なんとか我に返ったものは急いで2切れ目を口へと運んだ。
俺も食べようかと思って羊羹をフォークで一欠片切り取った。
フォークにその一切れを刺して口へと運び入れようとした時、急に扉が開いた。
俺はあまりの勢いに驚いてしまい、羊羹ではなくフォークを思いっきり噛んでしまった。
「何だ何だ、カールの次はなんなんだ!」
俺は羊羹を味わって飲み込んだ後、扉の方を見た。
すると扉は開け放たれており、そこにはグレースが立っていた。
その脇にはカールが挟まれており、助けてくれという表情でこちらを見ていた
「えぇとグレース……どうしたんだ?」
「ど・う・し・た・ん・だ、じゃあないわよ! 私にもあれ、頂戴!」
「あ、あれって?」
「ルフレイがカールにあげたあの茶色いお菓子よ! カールばっかりずるいじゃない!」
チョコレート……カール、見つかってしまったのか。
どうやらグレースは俺が内緒でカールにだけあげたことがご不満のようだ。
チョコレートひとつでそこまで本気で来るとは思っていなかったよ……
「だ、だがグレース、ハロウィンでお菓子をもらえるのは子供だけだぞ?」
「何、私がおばさんって言いたいわけ?」
「い、いやそういうわけでは……」
「じゃあ良いわよねルフレイ? 私にそれ、ちょうだい♡」
グレースは上目遣いで俺にチョコレートをねだってくる。
くっ、こんな顔をされたらあげないわけにはいかないじゃないか……
だがその前にひとつ確認をしておかなければ。
「なぁグレース」
「なぁに?」
「晩御飯におやつは付くんだが、その上チョコレートも食べたら太るのでは?」
「ル・フ・レ・イ? 女性に体重の話はNGよ?」
あっ、はい……
俺はもう何も反論できなくなったので、大人しくグレースにチョコレートを手渡した。
彼女はチョコレートを手に取ると、嬉しそうに飛び跳ねていた。
「ありがとう!……そういえばそれは何かしら?」
グレースはチョコレートを受け取ると喜んでいたが、ふと机の上の羊羹も見つけてしまった。
どうやら彼女はすでに羊羹にロックオンしているようなので、もう逃げ場はなかった。
仕方がないので俺は彼女に残りの羊羹を上げることにした。
「……どうした? 食べないのか?」
「いいや、食べるわよ?」
「じゃあこのフォークで……」
「食べさせて」
……え?
俺は驚きを隠すことができないが、どうやらグレースは本気のようだ。
彼女は口を開けて目をつむり、口に羊羹を入れてもらうのを待っている。
「……致し方あるまい。ここは心を無にして……」
俺は自分にそう言い聞かせながら羊羹を一口大に切り分け、フォークに刺した。
それをグレースの口の中にいれると、彼女はそれをパクっと食べた。
口を閉じると彼女は目を開き、こちらに笑いかけていった。
「これ、すごく美味しいわね! 今までに食べてきたデザートの中でもトップで美味しいわよ!」
「そうか、それは良かった」
「また食べるときには私に一口ちょうだいね」
「はい、分かりました」
グレースは満足したのかカールを開放し、そのまま部屋を立ち去った。
カールは脇から降ろされた状態でそこにまだいたため、残っていた羊羹を食べさせてあげた。
彼もまた羊羹に感激したようで、また食べさせてほしいと言ってきた。
「間宮羊羹って人気なんだね」
「そりゃあもちろん。間宮の羊羹は日本一ですよ!」
「間宮がいるから頑張れたんだもんなぁ……」
主計兵たちは自分たちの過去へと思いを馳せていた。
聞くところによると、間宮撃沈の報はどんな戦艦や空母が撃沈されたときよりも兵士の士気を下げたらしい。
それほど兵士にとってはなくてはならないものだったんだなと思わされた。
「さて司令。もうすぐで炊きあがると思いますよ?」
「そうか! よし、じゃあ早速この皿を片付けて夕飯の準備に入ろうか」
「「「「了解!」」」」
◇
夜、日も落ちた7時半。
ついに夕飯の準備が整ったので俺はグレースたちを呼んできた。
全員が食卓についたことを確認すると、俺はパンパンと手を鳴らした。
手が鳴ったことを確認した主計兵たちは、茶碗に盛られたホカホカのキノコご飯をワゴンに乗せて持ってきた。
彼らは俺達の前に1つずつそれを並べていき、同時に箸も置いていく。
あとから来た主計兵はカールには湯飲みに入った緑茶を、他の者の前にはお猪口と徳利を置いた。
「あら、すごく美味しそうね。どんな味がするのかしら?」
食卓についたグレースの母親、マリーが嬉しそうな顔をして言う。
カールとグレースは早く食べたくてウズウズしているようだ。
因みにこのキノコ料理はすごい量を作ったので、メイドなど城の使用人たちにも振る舞われている。
配り終えたワゴンを一旦戻した後、今度はおかずを積んで戻ってきた。
おかずには少し避けておいたかぼちゃで作った炊いたんと、キノコとかぼちゃの天ぷらが用意されていた。
天ぷらに付けるための塩も用意され、いよいよ準備が整った。
「では、いただきます」
「「「「いただきます!」」」」
最初は全員から不思議がられていたこの「いただきます」だが、その意味を理解したマリーが熱く称賛したことで王城では食べる前に使われるようになった。
全員が手をわせて早速食べ始めようとした時、ひとつ問題が生じた。
そういえば俺以外は箸を使えないということを忘れていたのだ。
「……あぁ、落としちゃった。これ、どうやって使うのかしら?」
グレースはなんとか箸を使ってみようと必死で格闘するものの、箸をあらぬ方向で持っていたため全然掴めていなかった。
マリーもカールも同じく、全然箸を使えていなかった。
その状況を見かねた主計兵の一人がスプーンとフォークを持ってきたので、この問題は解決した。
もちろん俺は箸を使えるので、そのままでキノコご飯をつまみ、口に運んだ。
「! キノコを食べたときから絶対に成功するとは思っていたが、まさかこれほどとはな。日本でもこんなに美味しい松茸ご飯を食べたこことはないぞ」
俺が親指を立てて主計兵たちに合図を送ると、彼らは嬉しそうに頭を掻いた。
その横では王城の料理人たちが味見をし、その味に驚嘆していた。
グレースは俺が美味しそうに食べているのを見て、スプーンでご飯をすくって口に入れた。
「なにこれ、すっごく美味しいわね! こんな料理があったなんて知らかかったわ! 何杯でも食べれちゃう」
グレースはグレースで、かなりキノコご飯を気に入ってくれたようだ。
その証拠に先ほど喋った以外には全く喋ることなく、一心不乱にご飯を口に運び込んでいる。
その横では、マリーがかぼちゃの炊いたんの美味しさに舌鼓を打っていた。
全員がキノコご飯を完食するまでにはあまり時間はかからなかった。
結局、俺とカールは一杯ずつおかわり、グレースは二杯おかわりしていた。
本当は三杯目のおかわりにも行こうとしていたのだが、マリーが彼女の腹肉をぷにっと掴んだことで、何を言わずに席に座ってお変わりに行くことを諦めていた。
「そんなに美味しかったならばまた作ればいいさ。主計兵たちには調理法をこの城の料理人に伝えておくよう言っておくよ」
「本当!? それは助かるわ!」
「さて、キノコご飯も美味しかったがまだ美味しいものが来るぞ。おーい、デザートを持ってきてくれ」
「デザートですね。かしこまりました」
主計兵たちには慌ただしく厨房へと入っていき、今度はワゴンにかぼちゃプリンを乗せて戻ってきた。
彼らは食べ終わった食器を下げた後、代わりにプリンを入れた容器を新しいスプーンと共に机へと置いていく。
甘いものに目がないグレースは、かぼちゃプリンを見ると目を輝かせていた。
「ねぇ、もう食べていいかしら!?」
「あぁもちろん。どうぞ食べて」
「じゃあありがたく……いただきます!」
グレースは元気よくいただきますと言うと、プリンをスプーンで掬った。
それを彼女はゆっくりと口へと運び入れ、またゆっくり味わう。
そしてプリンが喉を通った後、彼女は満面の笑みで言った。
「これも美味しいわね! 料理長、しっかりとレシピを聞いておいてちょうだいね!」
「分かりました。何としても再現できるように努力いたします」
「お願いよ」
グレースにそう言われた王城の料理長は、実物のプリンを食べながら主計兵から作り方を教わっていた。
このプリンはキノコご飯同様量があるので、使用人たちにも配られた。
このプリンは後に王城内で大人気となり、また作り方を覚えた料理人が町中でも販売を開始したため、王都の住民たちに急速に浸透していくこととなる。
「はぁ~美味しかったわねぇ。私すごい幸せだわ」
「そう。それは良かったよ」
「あなたも満足したでしょう、カール?」
「うん! すごく美味しかったよ!」
カールもグレース同様非常に嬉しそうな顔をしていたので、こんな形ではあるが一応ハロウィンパーティーをしてみてよかったな。
そう思っていると後ろの扉がゆっくり開き、軍務卿が中にはいってきた。
彼はカールの隣に立ち、耳打ちする。
「カール様、お食事の後はお勉強の時間ですよ」
「分かっているよ。じゃあ行こう」
カールはそう言うと、すっくと椅子からっ立ちあがった。
彼は軍務卿と手をつなぎながら部屋を出ていく。
そういえば最近よくこうして食事の後に部屋を出ていくが、一体何をしているのだろうか?
「カール? あれは勉強をしに行っているのよ。為政者としてのあり方の勉強をね」
「あんな年齢からご苦労だね。でも為政者の勉強とは言っても今はグレースが女王だし、あまり必要じゃないんじゃないか?」
「それがカールねぇ、どうやら私のために勉強をしているみたいなのよね」
「グレースのために? どういうことだ?」
その後グレースから聞いたことによると、それは彼女の結婚と大きく関わっているようだ。
もしもグレースが誰かと結婚するとなった時、その生活と政務に支障が出るようであれば彼女の代わりにいつでも王になれるようにしているとのことだ。
この時の俺もグレースも知らなかったが、カールの頭の中では俺にグレースが嫁ぐことになっていて、イレーネ帝国へとグレースが入内して政務が不可能になるためその代わりに政務をできるように、またグレースが好きに恋愛をできるようにとの配慮であった。
そのためにカールは軍務卿から手厳しく教育を受けていた。
だがその英才教育の結果、後に11才で帝国大学合格という快挙を成し遂げることになるとはまだ誰も知らない。