いつもお世話になっております。藤田桜です。
自主企画「第一回まやかしの小説広場」で評議員をしてくださっている繕光橋加さんが、総まとめの感想を兼ねたピックアップを書いてくださったのでご紹介します!
以下、繕光橋さんからお預かりした本文になります。
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「いつもお世話になっています、ぜんこうばしです。
今回も皆様の小説を拝読させていただき、たくさんエネルギーを頂きました。ありがとうございます。
皆様の生み出した小説が面白かったのもそうですが、紙媒体から見て低く見られがちな「ネット小説」という形状だからこそ、その世間的視線を跳ね返す力に触れることができて、これがめっちゃ嬉しいのです……
と、企画の度に思います。今回はいわゆる「川系」小説の古参の方や、新進気鋭の文筆家さんもいらっしゃって、ぜんぜん僕よりビッグネームの方もいる中で、「思うまま素直に感想を書かせて頂く」という、僕自身にもとてもいい刺激と成長になりました。(コナマイキに思われたらどうしましょうと思わなくもないのですが。)嫌いな作品というのもひとつもなく、認識とケンカもせず、「あれに見えるは茶摘みじゃないか♪」ぐらい晴れやかな気分でいます。
お誘い頂いた藤田先生、ありがとうございます。辰井先生と五三六P先生もありがとうございます。
参加作の中でかねてお伝えしたとおり、特に好感を感じた小説をピックアッ致しまして、共有申し上げます(番号は順位でなく、通し番号とさせて頂きます)(敬称略)。
1.『ダストボックスに捨てた夢を』ラーさん
ラスト2章がとても胸にくる。好きですね。一例を挙げれば、自宅に恋人を招待したときの不安さ、というのをしばらく経験していないけれど、「経験した気持ちにさせてくる」、というのはやはり筆力を存分に発揮した作者様の腕です。読む側としては、素直に「こんな作品が書けたなら」という感動と羨望が。書く側としては「どう調整して書いたんだ」という場面展開の連続。主人公も友人も、恋人も、応援せずにはいられない、そんな作品でした。
胸が一杯になったので、2周目を読むのが怖くなりました。爽快な読後感のまま、粗が目に入る前に、この物語と向き合うことを停止させて頂き、余韻を味わいました。臆病な僕の送る、最高に良かったの表現は、ま、こういった感じです。
で、「文学としての祝福」というテーマ性から見ても、登場人物が殻を破っていく様子、成長していく様子が描写できていてとても良かったです。僕は小説の中で時間を経過させようとすると、辻褄を合わせようとしてどこかでいきなり飛んだり、別視点を入れて巻き戻したりしてしまうけれど、その辺を使うことなく文章を持たせることができるのがすごい。主人公の主観に即したまま各キャラクターの好感度を保ち、生き生きと描写していく様子は圧巻です。好きですね。
2.『さよならアリゲーター』鍵崎佐吉
退廃的でよかった。最初読んだときは「いい雰囲気だな」くらいの心地よい小説だったのですが、述懐されるに過ぎない友人、述懐しているに過ぎない主人公の割には、妙に濃いものがあるなと後になって思います。
実体ではないけれど、雰囲気の出し方が絶妙で、その影を追いかけさせるのかもしれません。「人物描写の点で、」同じ条件かつ筆致が精細な人も勿論いるので、正直この帯域に何作品かあって迷いました。
ですが、多分一番人を選ぶんじゃないか、僕が推すべきなんじゃないか、という気がしたのが、この作品でした。あとサブタイの韻の踏み方が小洒落てて、強いて挙げるならそこがポイントです。単純ですけどね。
3.『一億年後・来世・出会い――』五三六P・二四三・渡
お世辞でなく五三六P先生の作品がめっちゃいい。
これについて触れなかったらぜんこうばしじゃない、くらいに印象に残っています。「反出生主義」という共通テーマへ、枠物語式にポストイットを貼り付けたような作品です。実はこれが複数の価値観を作品に反映させるのに最も基礎的なプロットだと僕は考えるのですが、全体が二万字以内という構成だと、一層効果が際立ちます。
ありがちなのが、既存売れっ子作家らが一冊まるまる使って、「共通のテーマに付属させていく」というのはあるけど、それをハードカバー本でやるとなると、ねえ?読む側としてはお金がねえ?
そんなこと言いたいんじゃないや。
最初に書いたのですが、ただネット小説が無料で読めるから……でなしに、「浮いたり沈んだりを繰り返しながら、読み物としての面白いを模索する」ことも、僕は評価したい。こんなん他の皆さんも当たり前に思うかもだけど。このテーマ性からの芽吹きを「祝福してこその」感想文に、したい。したいなあ。」
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